378. デグサル男爵領の開拓村で

 デグサル男爵の一声で街の警備に就くキブリンキ・サルタスたちは受け入れられた。

 税率を下げるということもあったのだろうが、この街は防衛の上でも不安があったらしく、強ければテイムモンスターでも受け入れるという土台があったみたい。

 この街の防衛には、3匹があたることになっている。

 そのほか、作物探索組がしばらくこの街に残り、不安な高さしかない街壁を高くしていくそうだ。

 この蜘蛛、本当になんでもできるな。


 それで、私たちの役割は終わりかというとそうじゃない。

 デグサル男爵と一緒に村の開拓へ向かうキブリンキ・サルタスたちを届けに行くことになった。

 その時、村で税率変更の話もするらしい。

 私も開拓村にキブリンキ・サルタスが馴染むかどうか気になるし、渡りに船かもしれない。

 ついてきてくれるヴァードモイ侯爵様とコウ様には申し訳ないけど、ちょっと開拓村まで足を延ばしてみよう。


 開拓村はデグサル男爵の馬車で1日ほどの距離にあった。

 ここの村長というか取りまとめ役は、デグサル男爵の次男らしい。

 ただ、仲はあまりよくなく、農民に対する税金のことでしょっちゅう揉めていたそうだ。

 今回はそのお詫びの意味もあるらしい。


 開拓村の門衛をしていた人にデグサル男爵は話をし、次男を呼んでもらうことにしたようだ。

 やがてやってきたのは、日に焼け体格も引き締まった貴族の子息には見えない青年である。

 彼がデグサル男爵の次男なのかな?


「ルジオ、少しいいか」


「オヤジ、なにをしに来た」


「いままでのことを詫びに来た。街ではすでに発表したが、すべての税率を変更する。貴族に収める作物は取れ高の5割にしたい」


「だめだ。今後5年間は4割にしろ。それだけ農民は疲弊している」


 次男坊さん、結構はっきり物を言う人だ。

 貴族であっても当主と子供でははっきりと身分差がある。

 それを曲げてでも農民のために動こうとしているんだね。

 なんだか、かっこいい。


「……わかった、お前の言うとおりにする」


「……オヤジ、俺が言うのもなんだが、なにがあった? オヤジが税率を下げるだなんて信じられないんだが」


「商業ギルドの女性にアドバイスをいただいた。税というのは高すぎても商売の妨げになるだけで、活発な取引が行われないそうだ。結果として収入が減り税金も減る、そんなこと私は考えたことがなかった」


「なるほど。オヤジにそれだけものを言える商業ギルドの職員が現れたか。とりあえず、オヤジが考えを改めてくれて助かるよ。いまのままだと食い詰めて死ぬ農民も出てくるところだった」


 うわぁ、そこまで深刻だったんだ。

 やっぱり税率って大事なんだね。

 私は人の上に立てそうもないなぁ。


「それで、用件はそれだけか? 随分と大所帯で来ているようだが。後ろに控えておられるのは、俺の記憶違いでなければヴァードモイ侯爵様のはずだ」


「ああ、そちらの件も話さなければな。ヴァードモイ侯爵様がとあるテイマーのテイムモンスターを貸し出してくれることになった。畑作りや野菜作りのプロらしい。ひとまずお前たち開拓村で様子を見てはもらえないだろうか?」


「テイムモンスターを? テイマーも一緒に暮らすのか?」


「いや、テイムモンスターだけだ。だが、その安全性はヴァードモイ侯爵様が保証してくださっている。ヴァードモイの街では、そのモンスターが警備にあたっているそうだ」


「モンスターが警備に……にわかには信じがたいが、ヴァードモイ侯爵様が直接やってきているということはそう言うことなんだろうな」


 うーん、やっぱりすぐには信用してもらえないか。

 まあ、それも仕方がないよね。

 キブリンキ・サルタスたちが実際に働くところをみて信頼してもらおう。

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