209. 市街地に行く方法

 ヴァードモイ侯爵邸に泊まった日だけど襲撃とかは特になかった。

 護衛にあたっていたタラトや『山猫の爪』のみんながなにもなかったと言っているしそうなんだろう。

 全員が揃って朝食を取ったところで私の要望を願い出てみた。

 アリゼさんの状況を確認しに行きたいと。

 想像通りヴァードモイ侯爵様は難色を示していたけどね。


「うーむ。今日でなければだめか? 街の厳戒態勢も解かれていない中、あまり出歩くのもよろしくない。ローデンライト様の馬車はもちろんヴァードモイ家の馬車でさえ貴族街を出れば民衆から襲われる可能性がある。あまり勧められんな」


「そうですか。私にとっては大切なビジネスパートナーなんですが」


「それはわかっている。だが、それにしても、状況が状況だけにな」


 侯爵様の言いたいこともわかるけど、やっぱりアリゼさんのことは心配だ。

 なにかいい方法は……そうだ!


「ルミテグランドウィングを使えば!」


「あれにもヴァードモイ侯爵家の紋章がでかでかと描かれている。ヴァードモイ侯爵家の関係者だと知らせるのは十分な物だろう」


「うう……」


 なんて言うか、あまりいい方法が思い浮かばない。

 こういうときアリゼさんがそばにいてくれたなら……。


「なんじゃ? そのルミテグランドウィングというのは?」


「あ、プラムさんは知らないんですね」


「うむ。聞いたことがない。教えろ、リリィ」


「はい。ルミテグランドウィングというのはですね……」


 私がルミテグランドウィングの大きさや性能などを説明するとプラムさんはニヤリと笑った。

 あ、これはなにかよくないことを考えている顔だ。


「つまり大型の輸送車というわけじゃな。それならば、安全に街へと入る方法があるぞ」


「それって、一体?」


「簡単じゃ。ルミテグランドウィングとやらに食糧などの支援物資を満載にして市街地へと出るがよい。そうすれば、市民からは『救援物資を届けにきてくれた車』と勘違いしてくれる」


「そんな簡単な……それに支援物資はどこから出てくるんですか?」


「父上が連れてきた部隊が必ず持ち歩いているはずじゃ。あくまで攻め落とす標的は王家であり一般市民ではない。一般市民を支援するための物資は持ち歩いておるじゃろう」


 なるほど、私はそれを配る役目という訳か。

 でも、そんなことを私がしてもいいのだろうか。

 ダーシェ公国の軍の功績を横からかっさらうような真似だし。

 それ以上に、私からの支援ということはヴァードモイ侯爵家からの支援と思われてしまう。

 そうなると、ヴァードモイ侯爵様の許可が必要だ。

 そう考え、侯爵様に話をすると案外簡単に許可をくれた。

 ただし、ローデンライト様を連れて行くことを条件としてだが。


「ダーシェ公国の軍と話をつけたローデンライト様がダーシェ公国の持って来ていた支援物資を配るという流れにすればよい。ヴァードモイ侯爵家がローデンライト様の後ろ盾ということになってしまうが、それもいまさらだ。ローデンライト様がお嫌ではなければこの方法で支援物資を届けたいと思いますがいかがでしょうか?」


 いままで黙って話を聞いていたローデンライト様も「これで少しでも早く民が息を吹き返してくれるなら」と承諾してくれた。

 後はダーシェ公国の軍から支援物資を受け取って市街地に向かうだけだね。

 アリゼさんのことだから無事だと思うけど、やっぱり心配だなぁ。

 早く様子を見にいかないと。

 私の方も心配をかけていると思うし。

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