208. ヴァードモイ侯爵邸に帰還

「……それで私の屋敷までローデンライト様とアネット様をお連れになったのか?」


 場所はヴァードモイ侯爵邸。

 もうすぐ日が赤く染まる頃になっており、街は一時の混乱から静けさを取り戻している。

 ここが貴族街だということもあるけど、貴族街だからといって安全だったはずもないしね。

 ちなみに、ヴァードモイ侯爵邸の前には警備なのか監視なのかわからないけどダーシェ公国の軍人が4人立っていた。

 ここに来るまでの間、ローデンライト様の馬車からも歩哨をしている兵士を見かけたし、ヴァードモイ侯爵邸にすんなり入れたのもローデンライト様の馬車の馭者をしていたのがダーシェ公国の兵士だったということもある。

 少なくとも、貴族街はダーシェ公国の兵士たちで厳重に警戒されているようだ。


「はい。あの場にいても気まずそうでしたし、護衛をするならそばにいていただいた方が安全だと考えましたので」


「安全か。確かに安全なのだが……」


「あの、ご迷惑でしたでしょうか?」


「いえ、伺った話を聞く限りその場にいても意味はないでしょうし、王宮に残っていれば暗殺の可能性もあったでしょう。そういう意味で言えば王宮を出られたことは幸いだったのですが……我が家も何分王族を泊めるような客室は用意しておらず」


「そこは構いません。急に押しかけたのですから高望みはいたしませんわ。それに、もっと高貴な方もいらっしゃいますし」


「ん? 儂のことか?」


 そうなんだよね。

 ヴァードモイ侯爵邸に戻るとき、プラムさんも一緒についてきちゃったんだよ。

 本人いわく『リリィの護衛じゃ』ということなんだけど。

 私の護衛ってタラトがいるし、ヴァードモイ侯爵邸に戻ってきたから『山猫の爪』のみんなもいるんだよね。

 かといって帰ってもらうのもなぁ。


「儂のことはあまり気にするな。これでも軍属だったことがある。屋根があるならそれだけでもマシな寝床よ」


「はあ。それで、その……プラム様、リリィがなにをしたのですか?」


「おお、そこの話をしていなかったな! 儂は20数年前にさらわれたらしく、今回ここ王都の西の森に氷の狼型モンスターの核として使われていたのじゃ。そこを救ってくれたのがリリィとタラトじゃよ。儂をさらった連中がリリィのことを嗅ぎつけておるかも知れぬし、念のため警護に来た訳じゃ」


「なるほど。姫君同様、たいしたもてなしも出来ませんがよろしいでしょうか? 日中にあった騒ぎで出歩くこともままならず」


「だから、気にするなと言うておる。……そういえば、昼間の騒ぎで死傷者は出ておらぬのか?」


「我が家からは誰も。ただ、隣家では爆発騒ぎがあったようです。誰が起こした騒ぎかもわからず、現在の厳戒態勢になってしまった模様で」


「ふむ、なるほど」


 よかった、ヴァードモイ侯爵家には被害が出ていないんだ。

 いまはヴァードモイ侯爵様しか対応に出てきていないから心配だったんだよね。

 これで少し安心かも。

 そういえばアリゼさんは無事だったんだろうか?

 明日、自由になれるんだったら様子を見にいきたいな。

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