207. 王座をめぐる議論とその外側

 次代の王様を決める議論は揉めに揉めている。

 第一王子と第二王子が死んでいるため、王弟殿下が王位継承順的には第一位なのだ。

 でも、それに異を唱えるのは第三王子と第四王子。

 王弟殿下もその子供たちと共に第三王子たちといがみ合っており、次の王様が決まりそうな気配はない。

 さて、どうしたものかね。


「ん? あれは……」


 王位継承をめぐる言い争いの輪から離れたところでぽつんと立っているのは、第三王女のローデンライト様だ。

 その足元にはまだ小さな女の子が一緒にいる。

 ローデンライト様の妹君だろうか?

 ちょっと声をかけてみよう。


「失礼します。ローデンライト様、あちらの議論には加わらないのですか?」


「あなたはリリィ。あなたも王宮に来ていたのですね」


「呪玉とかいう大きな魔石を処理したのは私の従魔のタラトでしたし、なんというかなし崩し的に」


「そうですか。私は王位など興味がありません。妹と静かに暮らせればそれでいいの」


「妹君ですか? そちらの女の子ですか?」


「ええそう。アネットというの。アネット、ごあいさつなさい」


「はい、お姉様。第四王女、アネットと申します。あの、そちらの大きな蜘蛛さんはなんですか?」


「こっちの蜘蛛は私の従魔のタラトですよ、アネット様。触ってみますか?」


「……噛んだり怒ったりしませんか?」


「優しく触るだけなら大丈夫ですよ。ね、タラト?」


「シャウ」


「タラトもいいと言っています。どうぞ」


「では……。うわぁ、硬そうなのに少し柔らかくてひんやりしてます!」


「種族特性ですね。その子、フロストシルクスパイダーっていうんです」


「初めて聞くモンスターの名前です。強いんですか?」


「……その、この国の騎士団数十人をまとめて倒す程度には」


「すごいすごい! こんなモンスターがお姉様の護衛に付いてくだされば安心なのに」


 ローデンライト様の護衛?

 どういう意味だろう?

 ローデンライト様の方を振り返ると困ったような笑みで答えてくれた。


「その、私のことを狙った暗殺者が最近頻繁に現れていたのです。それをこの子は心配して……」


 うーん、それは心配だよね。

 王族の関係性とかはわからないけど、単純な家族の絆として考えればお姉さんのことは心配だろうに。

 なにかいい方法はないかな?

 あ、そうだ!


「私たちが護衛に付くことはできないけど、代わりに別の安全な場所に連れて行ってあげるっていうのはどうかな?」


「本当? お姉ちゃん、大丈夫?」


「多分大丈夫だよ。じゃあ、ちょっと家主に許可を取ってくるね」


 家主……ルマジャさんに許可を取りに行った。

 ローデンライト様が置かれている現状を伝えて一時保護して上げられないかの相談だ。

 でも、答えはNOだった。


「気持ちはわかる。だが、妾の屋敷に姫を招いては妾が王家の乗っ取りを企てているのではないかと疑われてしまうので却下じゃ」


「そんな、ほかになにか案はないですか?」


「そうじゃのう。ここまで来る道中でも見ていただろうが王宮はぼろぼろじゃ。こんな場所では安全に過ごすことは出来ぬ。故に、どこかの貴族家に身を寄せる、というのはどうじゃ?」


 なるほど、貴族家か。

 それなら、いけるかも!


「ローデンライト様、一時的にヴァードモイ侯爵家に避難しませんか? 私もあそこの家に客として招かれているのでそれならばお守りできます」

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