416. 最初に向かう場所は

 振袖を披露した日から2日後、予定通り私たちはヴァードモイを出発することとなった。

 捕虜の兵士たちだが凍っている兵士たちはそのまま、氷の檻に捕らえられている兵士は氷の車輪付き輸送車へ移されてから移送される。

 ちなみに、抵抗などはなかったようだ。

 キブリンキ・サルタスたちも見張りにでていたし、下手に騒げば自分たちも凍りづけだからね。

 さすがに凍りづけは嫌だったんだろう。

 死にはしないとしても。


「リリィ。今回の旅だが、まずは旧王都へと寄っていく」


「旧王都ですか? 直接北に向かわずに?」


「王弟のいる場所に向かうには旧王都を通るのがもっともアクセスがよいのだ。モロガワードを尋問した結果、旧王都の勢力圏内で守りが薄いところがあり、そこを抜けて進軍してきたとも聞いている。それを教える意味もあるな」


「教えるだけですか?」


「教えるだけだ。他意はない。旧王都を治めている公爵殿とは仲良くしたいからな」


 なるほど、これもまた貴族のつながりというものか。

 私にはあまり関係のない話だし、深く関わらないでおこう。

 政治の話はヴァードモイ侯爵様にお任せだ。


 今回の移動は、私も主役ということで馬車での移動となる。

 ヴァードモイ侯爵様の馬車に同乗しての移動だ。

 馬車は6人乗り、ヴァードモイ侯爵様とその護衛ふたり、それから私とプラムさん、タラトが載る。

『山猫の爪』のみんなやプラムさんのお付きの人は私の魔導車を使っての移動である

 今回の移動もルミテスターティアラだ。

 輸送車であるルミテグランドウィングは使えない。

 そのほかにも護衛の騎兵や捕虜となっている兵士たちを移送するための馬、さらにキブリンキ・サルタスたちとかなりの大所帯である。

 移送する兵士たちが多い時点で諦めていたけど、本当に大所帯である。

 大事なので2度言った。


「そういえば、旧王都っていまどんな感じになっているんでしょう?」


「いまか。旧王家の代わりに治安維持と政策を行うために入った公爵家の尽力により、かなり正常化されていると聞く。雇用問題が解決したのが一番大きいな。だが、同時に一番外の壁の周りにスラムが形成されてしまい、そこの治安維持に時間と手間を取られているようだ」


「スラム……やっぱり働き口がないんでしょうか?」


「旧王都は元々人口が過剰気味だったからな。そこに、北部で起きた王弟と第三王子の戦争で避難民が南へとやってきた。東西にできた国では国境で厳しくせき止められているようだが、旧王都は国境と呼べるものがなかったわけだ。街の周りに住み着いてしまったのだろう」


「うーん、その人たちってヴァードモイまで来ないんでしょうか?」


「目指す者がいないわけではないだろうが、ヴァードモイまで道が整備されているとはいえ、徒歩では数日かかり、モンスターが出没する地域もある。旧王都まで来る時点で命がけだったのに、さらに命がけの旅をする気力がない者がほとんどなのだろう」


 それで、ヴァードモイじゃそういう人たちをほとんど見かけないのか。

 あと、ヴァードモイ侯爵様をはじめ、南部国家は旧王都に対し難民支援のための援助を行っているみたいだ。

 つまり、旧王都ではそれなりの保護が行われていることになる。

 それもあってさらに南を目指す者がいないんだろう。

 難民を押しつける形にはなっているけど、相応の支援はしているんだね。

 政治は難しい。

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