415. 振袖のお披露目

 振袖は1週間くらいで形にしたんだけど、草履がどうにもならなかった。

 期間も短いし仕方がないね。

 足元はいつものブーツにしておこう。


 そして、完成したらヴァードモイ侯爵様に確認してもらう。

 おかしなところがないか見てもらうことになっていたのだ。

 もっとも、ドレスの指定で振袖が出てくることが想定外だろうが。


「ふむ、それがリリィの暮らしていた国の礼装か」


「はい。ひとまとめに『着物』と呼ばれていた服装の中で『振袖』と呼ばれるものですね」


「フリソデか。袖が長いようだが、それが由来か?」


「どうなんでしょう? そこまでは私も」


「まあ、よかろう。それにしても豪華なドレスだな。服全体を鮮やかな色と刺繍で一枚の絵画のように仕立て上げている。それが一般的な物なのか?」


「振袖はこんな感じですね。この服は未婚女性が晴れの日、特別な日に着る服なので豪華になっているんだと思います。既婚女性でもっとも格式が高いのは……黒留袖だったかな?」


「いろいろと種類があるのだな。ドレスはドレスということか」


「はい。そういうことです」


「わかった。お前のドレスはそれでいいだろう。問題は……帰ってきたあとだな」


「帰ってきたあと?」


 帰ってきたあとってどういうことだろう?

 ヴァードモイ侯爵様の言っている意味がわからない。

 気になったので聞いてみると、振袖の話は北の国から公国まで届くだろうということだ。

 要するに、ローデンライト様の耳にまで届くと。

 うん、まずいね。


「あー、ローデンライト様の分も作らないとまずいですね」


「作るかどうか尋ねる必要はあるだろうな。かなり型変わりなドレスであり、何枚も着込む上、すべてがシルク製となると刺繍や染めの代金も含めて非常に高額となるだろう。それを社交のための必要経費と見てくださるかどうかだ」


「そうですね。私だから気軽に万能染色剤をバンバン使っていますが、普通に作ろうとすると染めるだけでもすごい金額になると思います」


「であろうな。お前が持っている色彩見本とやらは私の目では理解できなかったが、その振袖とやらも細かく色を分けているのだろう? そうでなければ鮮やかな発色でありながら色が自然と変化するなどできはしまい。その程度は私にも想像がつく」


 さすがにわかるよね。

 この一着のために万能染色剤を100回くらい使った。

 とってもじゃないけど、ほかの人にはここまでの発色はできないだろう。

 ただ、私だけが技術を独占するというのもまずい気がするので、帰ってきたらそこもアリゼさんと相談しよう。

 染め物職人と協力すれば表現の幅が広がるはず。

 要相談だね。


「さて、リリィのドレスも整った。王弟のいる国へ出発するための準備は進んでいるな?」


「はい。振袖作りと並行して進めてもらっておきました」


「よろしい。ならば、明後日出発だ」


 いよいよ北の地か。

 護衛としてキブリンキ・サルタスたちも多数同行するけど気は抜けないね。

 どんな旅になるか、ちょっと怖いけど覚悟を決めて行こう。

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