414. リリィのドレス

 今回、北へ向かうにあたりヴァードモイ侯爵様からひとつ宿題を出された。

 私のドレスを作ることである。

 うん、延び延びになっていた問題だね。


「私のドレスかぁ。どんなのがいいですかね、プラムさん?」


「お主、デザイナーでもあるのじゃろう? 儂に聞くのか?」


「そうなんですけど、自分が着るとなると想像ができなくて」


「なんというか、あれじゃな」


 これまではどこに行くにしても冒険者ルックで通していた。

 私自身、銀級商人とはいえ一般市民だし、会いに行く相手は基本的にヴァードモイ侯爵様の知り合いがほとんどでドレスを必要としなかったためだ。

 去年の冬に旧王都へ行ったときだってドレスを作りに行ったのであり、それ以外はおまけで付いてきた副産物である。

 商業ギルドでも特に指示されなかったためいままで作らずに通していたが、そうもいかなくなったらしい。

 さて、どうしたものか。


「リリィ、お主はこの国の出身ではないよな?」


「そうですね。それがどうかしましたか?」


「ならば、お主の出身国のドレスなどはないのか?」


「私の出身国のドレス……ああ、その手がありましたね」


 西洋風のドレスばかり見る世界に来ていたから忘れていたけど、着物だって礼装になる。

 そっか、その線で行こう。

 じゃあ、さらさらっと着物の構造を描いて……。


「あれ? こういうときってどんな着物がいいんだっけ?」


 着物って一言で言ってもいろいろと種類があるよね。

 留袖、振袖、打掛とか。

 留袖は既婚者の礼服だった気がするから振袖かな?

 振袖って晴れの日に着るイメージが強いけど、この世界にはないだろうしいいか。


「えーと、振袖は袖が長くて刺繍が豪華な物だよね。ふむ、秋だし楓の刺繍にしよう」


 振袖その他、必要な物を型紙に描いていく。

 草履はあとで相談だ。

 刺繍は裁縫段階ではどうにもできないので、魔法刺繍で補う。

 普段作るドレスよりも大きく細かい物になるから、それなりに大変だな。

 それでも丸一日で完成するあたり私も成長してると思うけど。

 これ、普通に手作業でするとどれくらいの時間がかかるんだろう?


「布はタラトのシルクを使えばいいから楽だよね。全部シルクっていうのもなかなか豪華だと思うけど」


 着物の構造を理解しているのが私しかいないから仕方がない。

 仕方がないのだ。

「よし、完成! ……あれ? 着付けってどうするんだっけ?」


 着物はゲームをしていた頃に作ったことがあったから覚えていたけど、着付けの仕方は知らないなぁ。

 ゲームは細かい着付けまで考えなくてもよかったし。

 まあ、女神様の本に載っていたので、プラムさんのお付きの人に頼んで覚えてもらった。

 私じゃ覚えられないからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る