108. 特別編:テイマーエルサの日常 4

 私たち3人が修理に出した武器や解体に出したモンスターの買い取り報酬を受け取ったあと、リリィ先輩たちと合流しお店へと向かう。

 目的のお店はお父さんが長年ライバルとして競い合っていたレストランだ。

 お父さんのお店が大衆向けなら、あちらのお店は高級志向。

 つまり、普通の黒冒険者は入れないことになる。

 でも、私はお店のオーナーと知り合いだし、今日は銅商人のリリィ先輩もいるから通してもらえた。

 ……普段、このお店で料理を食べられるほど稼いでないしね。


 私たちは盗聴防止の魔道具が設置された個室へと案内してもらい、コース料理をお願いする。

 このコース料理、ひとり一食で3000ルビスもするから驚きだ。

 その分、輸入品の魚や珍しいお肉などもふんだんに出てくるけど、何分お値段が……。

 リリィ先輩の分は断固として私が払うことにしたけど、護衛の皆さんの分はリリィ先輩にお願いした。

 うん、そこまでお金はないんだ……。

 あと、ウラちゃんとシェルチェちゃんも自腹だ。

 身体強化の原理について聞きたくてついてきているんだから、この程度の出費は我慢してほしい。

 今日の収入がなくなる程度で済んでいるわけだし。


 料理が運ばれてき始め、食事が始まる。

 リリィ先輩は食事マナーもしっかりしていて所作も美しい。

 なんでも侯爵様から派遣されてきた騎士様とメイドからマナー講習を受けているのだとか。

 銅商人ともなると、豪商や貴族様との付き合いも出てくるからマナーは必須なんだそうだ。

 シェルチェちゃんも綺麗なんだけど、どうしてだろう?

 ウラちゃんはシェルチェちゃんに指導されながら頑張って覚えているくらいなのに。


 食事が終わり、食器が下げられ、店員さんが部屋から退出していくと、いよいよ本題である身体強化の魔法について説明をしてくれることとなった。

 もっとも、リリィ先輩は困った顔をしているけど。


「うーん、夕食をごちそうになっていてなんだけど、身体強化の原理って本当に単純なんだよ? みんなそれを忘れているだけで」


「構いません。リリィ先輩、教えてください」


「わかった。身体強化ってね、魔力を体の外に放出するんじゃなくて体の内側に溜め込むの。それだけで発動するのよ」


 え?

 たったそれだけ?

 ウラちゃんとシェルチェちゃんも唖然とした顔をしている。

 そんな簡単なことだったの?


「ただ、意識してやろうとすると難しいんだけどね。魔力の込め方にムラがあると身体強化にもムラが出来て上手く効果が発揮できない。現代で身体強化が上手くいっている人って無意識のうちに魔力を溜めることができている人なんじゃないかな」


 ……なるほど、そう言われるとそうなのかもしれない。

 お店の中で試してみるわけにはいかないけれど、魔力を一瞬だけ放出すればいい魔法と違い、身体強化は効果がほしい間ずっと魔力を使い続けなければいけない。

 魔力を多く使えば強化具合も上がるけど、体にも負担がかかるからそこも判断しなくちゃいけないそうだ。

 ちなみに、どの属性の魔力を使うかによって身体強化の効果も変わるらしい。

 火属性ならわかりやすい筋力の強化、水属性なら治癒力の強化、土属性なら骨や筋肉の頑丈さの強化、風属性なら動いているものを視る力の強化だそうだ。

 ほかの属性も別の効果があるらしいけど、そこまでは教えてくれなかった。

 というか、この4属性をバランスよく使えるようにならないと、残りの属性を鍛えても自分の体を壊すだけらしい。


 具体的には、筋力強化だけを使って武器を振るいなにかを殴ると手や腕の筋肉や骨にダメージが入る。

 それを避けるには土属性の強化も同時に使っておかなければいけない。

 でも、土属性の強化を使っていてもダメージは蓄積されていくから、水属性で自己治癒能力を上げておかないとそのうち手が痺れたり手の骨に罅が入ったりする。

 じゃあ、風属性はなにに使うかというと相手のスピードが速くて目で追えなくなったり、自分の足の速さを強化して相手のことを見失ったりしないためのもののようだ。

 ここまででも十分奥が深い。

 オーガの一撃を受け止めるような真似をするにはほかの属性も必要になるらしいが、どれだけの属性を重ねればいいんだろう。


 ともかく、支払った食事代以上のことは教えてもらえた。

 実戦で活かせるかどうかかは別だけど、いざというとき後悔しないようにしっかり練習しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る