107. 特別編:テイマーエルサの日常 3
ホットチリバーガーは半分くらいしか食べられなかった……。
というか、ジンジャーウォーターも辛みがあって……。
ジンジャーウォーターは全部飲んだけど、ホットチリバーガーの半分はウラちゃんの胃袋に収まった。
会計の金額的には結構良心的なお店のようだ。
私はあまり食べることができなかったから屋台での買い食いが増えるけど。
ヴァードモイの街にある屋台通りではたくさんの料理が売られている。
一番多いのは串焼き肉、二番目はスープ類だ。
それ以外はちらほらと……かな?
やっぱり屋台で売るには串焼き肉のインパクトとスープの飲みやすさに敵うものはないのだろう。
お酒を屋台で売ることは禁じられているしね。
お酒が飲みたければそれ専門の店に行けということなんだろう。
冒険者ギルドに併設されている酒場だってお酒を置いているんだし、酒場はそんなに珍しくない。
ただ、女性が安心して入れるかどうかは別問題だけど。
一通り買い食いが終わったら装備のチェックをしに行くというふたりに便乗して私も装備のチェックをしてもらいに行く。
行き先はふたりと一緒の『溶鉄の輝き』だ。
白階級の頃からお世話になっていて品揃えも豊富、しかもお安めなためほかの鍛冶屋に乗り換える予定はいまのところない。
品揃えとしては黒冒険者から青冒険者向けなんだけど、素材の持ち込みをすれば赤冒険者でも満足できるような装備を作ってもらえるようだ。
私たちにはそんな装備、まだまだ必要がないけど。
「ふむ。ウラのメイスは少し曲がっているな。エルサの短槍は……少し研いでおくか」
「おいくらですか?」
「たいした仕事じゃねぇから両方とも200ルビスでいいよ」
「じゃあ、お願いします」
「私もお願いします」
「おう。夕方にでも取りに来てくれ」
私とウラちゃんの装備は終わった。
シェルチェちゃんの装備は……ちょっと時間がかかっているみたい。
どうしたんだろう?
ウラちゃんが様子を見にいった。
「シェルチェちゃん、どうしたの?」
「いえ、私のワンドの魔法回路が焦げ始めているそうで……修理するより買い換えた方がいいと」
「それで悩んでいたの?」
「はい。ハノン様によれば材質をあげるか、短いワンドではなく長いロッドに変えるかのどちらかだと言われて……」
「ロッドじゃだめなの?」
「魔法を使うときの癖が変わるんですよ。かといってワンドは高すぎますし」
「じゃあ、ロッド一択じゃない?」
「そうなりますわよね……そういたします」
シェルチェちゃんはいろいろ悩んだ結果、ロッドを買ったようだ。
しばらくは新しい武器の慣らしとして弱いモンスターを狩るんだろう。
私たち三人は『溶鉄の輝き』を出たあと、そのまま『蜘蛛の綿雲』へと向かった。
ウラちゃんとシェルチェちゃんは装備のチェックをしてもらうためだけど、私はちょっと違うんだよね……。
リリィ先輩、教えてくれるかな?
「いらっしゃいませ。……あれ、ウラちゃんとシェルチェちゃん、それにエルサさんも一緒だなんて。どうしたの、今日は?」
「私とシェルチェちゃんは装備をチェックしてもらいにきました。ホブゴブリンと戦ってきたのでちょっと傷がついていますから」
「なるほど。じゃあ、鎧を脱いで貸してもらえる? 修理費は状態を見て教えてあげる」
修理費はウラちゃんが300ルビス、シェルチェちゃんが130ルビスだったようだ。
購入したときが1200ルビスだったらしいので大分安い。
それに魔法裁縫による修復は、新品同様に直るからお得なのだ。
ほかのお店で買った装備は修理できないけど、このお店で買った装備は修理してもらえる。
そこもこのお店の利点だね。
女性専用だから気兼ねなくお店に入れるというのもあるけど。
「エルサさんは? 確認しなくてもいいの?」
「私は大丈夫です。それよりも先輩、聞きたいことがあって」
「先輩って柄じゃないんだけどな。メインは商人だし」
「それでもコールたちを従えるために岩山へ案内してくれた先輩です。それで、聞きたいことなんですが、先輩ってオーガの攻撃も盾で受け止められるんですよね? 私はストロングボアの突進さえ弾き飛ばされました。なにか秘訣でもあるんですか?」
「ああ、それ。私の盾が特別というのもあるんだけど、力の込め方が違うの。身体強化を使って受けとめているんだよ」
「身体強化!?」
身体強化って身体強化魔法だよね!?
大昔に原理がわからなくなって、いまでは一部の冒険者がなんとなく出来るに留まっているはずなんだけど……。
リリィ先輩は意図的に出来るの?
「身体強化ってね……」
「リリィ様、あまり軽々しく教える内容でもないかと」
よかった、護衛の冒険者さんがリリィ先輩を止めてくれた。
内容は聞きたかったけど、ちょっと軽々しく聞くには重たい。
でも、内容は知りたいな。
どうしよう。
「トモアさん、そんなに難しい事じゃないですよ?」
「リリィ様にとっては難しいことではないでしょう。ですが、身体強化の原理ははるか以前に失われているのです。それを軽々しく教えるのは……」
「うーん。でも、私はかわいい後輩になら教えてもいいんだけどな」
かわいい後輩!
私はリリィ先輩にかわいい後輩だと思われていたんだ。
でも、防音設備もないこのお店で聞くのはためらわれる。
……そうだ、防音設備がある場所ならいいんだ。
「リリィ先輩。盗聴されないレストランがあるんですが、そこで教えてもらえませんか? もちろん、私のおごりです」
食事をおごって聞き出すのはちょっとずるいかな?
冒険者同士ならよくある話だけど、今回は内容が内容だからなぁ。
怒られないといいんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます