第五部 夏! 夏! 夏!

第一章 『魔法の蝶』の初めてのお客様

289. 暑い季節がやってきた!

 スキルクリスタルを取りに行き終わったあと、侯爵様からの要望でもう一度スキルクリスタルを取りに行き、帰ってきたらもう夏の季節になり始めていた。

 お店で並べている品物は前回帰ってきたときに入れ替えておいたけど、それでも結構な量が売れている。

 売れ行きがいいのは嬉しいことだ。

 あのスキルクリスタルが大量に必要だったことを除けばね。


「……はい。それでは今週分のスパイダーシルクとマナスパイダーシルク、確かに受け取りました」


 今日は週一回行われているシルクの納品日だ。

 最近はいろいろな場所に行ったり別のことをしたりで不定期だったけど、基本的には週に一回、アリゼさんを経由して商業ギルドにシルク系を納めている。

 今週はその関係で少々多めの納品となっていた。


「今週はこれで終わりですね。リリィ様、今週はどこかにお出かけの予定はございませんか?」


「とくにないですね。ヴァードモイ侯爵様から呼び出しがかかれば別ですが、それもしばらくないでしょう」


「ヴァードモイ侯爵様。ああ、例のスキルクリスタルの鉱床の件ですか」


 う、アリゼさんにはなにも話していないのにばれている。

 どこから漏れたんだろう。


 私がちょっと引いていると、アリゼさんは商業ギルドのギルドマスターであるプリシラさんとともにヴァードモイ侯爵様から直接この話を聞いているらしい。

 なにかあったとき、商業ギルドでも私のバックアップをしてもらえるようにとのことだ。

 ただ、具体的にどんなスキルクリスタルが採取できるのかは聞かされていないみたい。

 まあ、内容がばれれば戦争の火種になりかねないとかで、スキルクリスタルの個数を数えるのもヴァードモイ侯爵様自らがひとりでやってたほどだし仕方がないか。


 商業ギルドとしても危ない橋は渡るつもりがないみたいなので、このことについてはあまり詳しく聞く気はないようだ。

 代わりに、この先私が私のお店で売りに出す服のデザインについて聞かれることとなった。


「そうですね。やっぱり袖の短いシャツでしょうか。夏はやっぱり蒸れますからね」


「確かに、蒸れますね。ですが、商業ギルドのように制服のある職業だとシャツひとつ変えることもできないんですよ」


 ああ、そうなのか。

 私、制服のある学校とか通ったことがないからわからないんだよなぁ。

 前世の制服がある学校は、夏服と冬服に分かれていたところが普通だったと思うけど、この世界ではそういう考えもないのか。


 ん?

 それって商機なのでは?


「つまり、夏用の制服を作れば売れるってことですよね?」


「それは、そうなりますね。ただ、ギルドの制服ともなるとギルドマスターの一存だけでは決められません。ギルド職員の組合を通す必要があります」


 アリゼさんの言う『ギルド職員の組合』というのは、ギルド職員の福利厚生をギルドに要求する組合のようだ。

 これまた私は知らないけど、前世でいう労働組合みたいなものかな?

 ともかく、そこで認められて初めてギルドとの交渉に持って行けるらしい。

 それはやり甲斐のある仕事だ。

 早速帰ったらみんなと相談してみよう!

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