エピローグ 帰ってきたお姉ちゃん
288. 久しぶりの我が家
「ふーむ。これだけの種類のスキルクリスタルの鉱床か……」
帰ってきてすぐ、ヴァードモイ侯爵様に緊急の用件があるということで面会させてもらう。
さすがにこれだけのスキルクリスタルが揃うなら緊急事態だろう。
ヴァードモイ侯爵様の顔も険しいままだし。
「それで、メラニーよ。その鉱床は誰にでもいける場所にはないのだな」
「はい。この地図を持っている者が一緒ではないと最初の鍵すら手に入りません。そのため、誰かに荒らされる恐れはないかと」
「わかった。問題は追加で人を送り込めるかだな」
「ですね。おそらくこの地図があれば大丈夫でしょうが」
「その地図か。所有者は?」
「……リリィさんです」
この地図の所有者でも揉めたんだよなぁ。
私的にはもう目当てのスキルクリスタルは手に入ったし、ほかのスキルクリスタルはいらないから冒険者ギルドに引き取ってもらおうとしたんだけど、冒険者ギルドもこんな危険物もらえないと言われてしまった。
まあ、危険物ではあるんだけど、それならなおさら冒険者ギルドで管理してもらいたい。
「リリィか。まず、サンプルとして持ってきてくれたこのスキルクリスタルの対価だが……いかほどを望む?」
あれ?
こういう物ってある程度相場が決まっている物なんじゃないかな?
そこのところをヴァードモイ侯爵様に聞いてみると、難しそうな声で実情を語ってくれた。
「これが火魔法や回復魔法といったそれなりに出回っているスキルクリスタルならば問題ないのだ。だが、今回発見されたのは希少価値が高すぎるスキルクリスタル。正直、言い値で買い取るしかないのだよ」
うわぁ、そこまでレアものだったんだ。
それじゃあ、どうしようかな。
「あの、アミラの護衛を増やしてもらうことはできますか?」
「アミラの? お安いご用だがそれくらいでいいのか?」
「はい。それで十分です。あ、あと。それ以外にも小さな岩程度ですが『魔法裁縫』と『魔法紡織』のスキルクリスタルの鉱床が見つかっています。そちらを自由に掘る権利、というのはどうでしょう?」
「『魔法裁縫』は問題ない……といいたいところだが魔法裁縫士をむやみやたらと増やされたくはないな。一応許可制としてくれ」
「わかりました。『魔法紡織』の方は?」
「そちらは少し考えさせてもらいたい。国に布の一大耕作地を作るかどうかという話があってな。そこで活躍する可能性があるのだ」
なるほど。
それじゃあ、そこの権利に孤児院の子供たちを割り込ませることができそうだね。
私も悪知恵が働くようになってきたなぁ。
「あと、問題はスキルクリスタルを掘りに行く者だが……これはリリィたちにまかせてもよいか?」
「私たちにですか!?」
真面目な口調でヴァードモイ侯爵様の口から出た意見に、私は思わず大声を上げてしまう。
ヴァードモイ侯爵様から教えられた理由はこうだ。
まず、鉱床の存在を他の者には知られたくない。
知られたとしても行けなければ同じこととする。
次に、必要となる機会はそれほど多くなく、事前に発注できる程度の数しか頼まない予定だそうだ。
最後に、既に鉱床の鍵を持っている私たちならダンジョンに入ってハンドベルを鳴らすだけで鉱床へと到達できることがある。
ちなみに、第一層でハンドベルを鳴らしても鉱床に出るし、帰るときにハンドベルを鳴らすと第一層に出る。
第四層まで潜る必要すらないわけで。
数が決まっているなら私たちを頼った方が早いというわけだ。
うーん、反論しにくい。
この件は、その都度依頼料としてなにかをもらうことで手を打った。
そんなことより、私は早く家に帰ってアミラと会いたいのだ!
侯爵邸を辞し、そのまま魔道車で私の家まで送ってもらう。
ああ、ようやく久しぶりにアミラに会える!
「ただいま、アミラ!」
「お帰りなさい、リリィお姉ちゃん!」
ああ、アミラが満面の笑みで迎えてくれる生活。
これだ、これが私の待ち望んでいた人生だ!
「あ、そうだ。お姉ちゃん、これ、作れるようになったんだよ!」
アミラが見せてきたのはエプロンだった。
それもきれいに形作られたエプロンである。
もしかして……。
「アミラ、『魔法裁縫』ができるようになった?」
「うん! お姉ちゃんがいない間、一杯練習してできるようになった!」
……そうだよね、アミラってとっても頑張る子だもんね。
いなかった期間もかなり長かったし仕方がないか。
スキルクリスタルは余ってしまったけど、よしとしよう!
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