290. 商業ギルドの制服案

 アリゼさんの許可ももらえたことだし、帰って早速デザイン案を考えようと自室に入る。

 でも、なかなかいい案というのも思い浮かばない。

 私は自由気ままに服装を変えているから気にしたことはないけど、やっぱりああいう組織だと決まった服装というのも大切なんだろう。

 規則とか規律とかで。

 うーん、なにかいい案はないだろうか。


「……それで、こちらにやっていらしたと」


「はい。プラムさん付きの皆さんでしたらなにかいい案もあるかと思い」


 私がやってきたのは『魔法の蝶』だ。

 新装開店させたはいいものの、いまだにお客様がゼロのお店である。

 こっちのお店はお客様がいなくても問題ない。

 貴族向けにでっち上げたお店とも言えるので、あまり混んでいない方が楽なのだ。

 名目上ではローデンライト姫のドレスの依頼を受けていることになっているため、ほかの貴族は割り込めないし。

 あと、ちゃんとローデンライト様のドレスも数着ずつ収めているとは告げておく。


 ともかく、私はそんなお店の方にやってきた。

 こちらのお店の運営をしてくれているのはプラムさんがダーシェ公国から呼び寄せたプラムさんのお付きの人、つまりはメイドさんとかである。

 全員荒事もこなせるとかそういうことはおいておいたとしても、服についての知識だって一流のはずだ。

 そんな彼女たちの力を借りたい。


「そうですね。そもそも、そのギルドの方たちは制服を替えたいんでしょうか?」


「え?」


「制服というのは長年使われてきたものです。その中には機能性という側面も含まれ、それらは定期的に悪い点を見直し改良を施していったはず。その流れを断ち切ってまで新しい制服を導入したい方がどの程度いるのでしょう?」


 あー、そっちの考えはなかったな。

 確かに、新しい制服を着てみたいという人もいればいまのままの方がいいという人もいるだろう。

 そちらの需要も考えなくちゃいけないのか。

 難しい問題だ。


「リリィ様、少し発想を変えてみましょう。いまの制服で夏に一番困ることはなんだと思われますか?」


「それは……やっぱり、暑くて蒸れるとか?」


「そこだと考えられます。そこを改善できるような製品を考えて売るのはいかがでしょう?」


 ふむ、制服を替えるんじゃなくて制服に新しい機能を追加するのか。

 悪くないかな。

 そして、暑さ軽減だけだったらそんなに難しい相談じゃない。

 よし、この考えで行こう。


 そして、試作品を作り、早速アリゼさんに見せに行く。

 果たしてアリゼさんの反応はどうかな?


「なるほど。制服ではなく、中に着るベストに『耐暑』と『冷感』のエンチャントをかけたんですね」


「制服にかけてもよかったんですが、それだと夏以外に困ることもありますよね?」


「『耐暑』の方はともかく、『冷感』は困る者もいるでしょう。ですが、夏でも『冷感』は苦手な者がいるでしょうね」


 ああ、なるほど、冷え性の人か。

 そこまで考えてなかったなぁ。


「じゃあ『耐暑』だけのベストも用意しましょう。お値段は……これくらいで」


「……さすがにエンチャント付きの服をこの値段で納められると不安が出るのですが」


「布は私が作るスパイダーシルク製ですからね。エンチャントも私が付与できるのでお買い得です」


「わかりました。この値段と試作品を持って職員組合に相談してみましょう。あと、もうひとつの試作品ですが……」


 あ、アリゼさんが真顔になった。

 これは好感触な気配。


「少々、股間がスースーしますが夏の暑い季節にはぴったりです。ですが、本当にいいんですか、この金額で? これ、フロストスパイダーシルクのショーツですよね?」


「はい。フロストスパイダーシルクのショーツですね。私が魔法裁縫士なので、布面積が少ない物を作るときは本当に無駄が出ないんですよ。なのでそのお値段でお売りできます。あと、洗濯しても縮んだりしないようにエンチャントもかけてあります」


「では、女性の間で販売交渉をしてみたいと思います。預かったショーツは試供品として渡していいのですね?」


「はい。それに、誰か他の人がはいた下着を着けるのって嫌じゃないですか」


「ですね。では、男性職員に気付かれないよう、こっそりと広めることにします」


 フロストスパイダーシルクの下着はレースとかもあるからね。

 ちょっと大人っぽい色気のある下着なのだ!

 やっぱりこういう下着も広がってほしいのだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る