291. お姫様からの紹介者

 商業ギルドへの提案も無事通り、耐暑ベストとフロストスパイダーシルクショーツは飛ぶように売れた。

 うん、ショーツはみんな色違いやデザイン違いを何枚も買ってくれるから儲けがすごい。

 フロストスパイダーシルク製なので商業ギルドに卸す分との兼ね合いもあって予約待ちすら発生している。

 ちょっとお姉様方の本気を舐めていた。


 さて、そんな風にメインはショーツ、息抜きにベストを作っていたある日のこと、『魔法の蝶』にお客様が見えたらしい。

 お客様はコウ様と女性がもうひとりだとか。

 事前に教えてくれれば待っていたのに。

 というか、普通は事前に教えるものと聞いていたのだけど違うのかな?

 まあ、ともかく会いに行くか。


「あ、リリィ。ようやく来たわね」


「コウ様、ようやく来たと言われても、前触れもなしじゃ無理ですよ。私が普段こちらのお店にいないことはご存じですよね?」


「うっ。それもそうね。そんなことより、今日はこの子のドレスを依頼に来たの」


 コウ様は取り繕うように今日の訪問内容を告げてきた。

 でも、私のお店ってローデンライト様のドレスができるまでほかの貴族の依頼は受けないのでは?

 そこについて聞いてみると、コウ様は一枚の書状を供のものに持ってこさせた。

 署名はローデンライト様からだ。


 封を開けて読むと、今回の依頼については特別に受けてほしいと書かれていた。

 支払いもマクファーレン公爵家で持つらしい。

 うん、どうにも怪しい依頼だ。

 ちょっと、そこのところをコウ様に詳しく聞いてみよう。


「ああ、そこね。実はこの子、旧国東側の侯爵家に嫁入りに行くのよ。でも、この子の家系って伯爵家ではあるんだけど貧乏でね。あまり立派なドレスを用意してあげられないの。そこを考えての処置というわけね」


「なるほど。ある意味、マクファーレン公国の威信付けみたいなものですか」


「まあ、ぶっちゃけその通り」


 相変わらず、コウ様って軽いなぁ。

 無茶ぶりしてくれるけど。

 とりあえず、今回の依頼は断れそうにないので本人に直接話を聞いてみることにしよう。


 この女性の名前はガレット伯爵家の長女、シャミ様だ。

 ガレット伯爵家は南部貴族の伯爵家だが、あまり経済は潤っていないらしい。

 東部貴族の侯爵家とは国が分裂する以前から婚約関係にあり、この夏ようやく結婚にこぎ着けることになったが、嫁入りのための道具がないときた。

 ドレス以外の道具はマクファーレン公爵家で揃えたようだが、ドレスについては期日が厳しく間に合いそうにない。

 とくに結婚式に使うドレスが致命的らしいのだ。

 そういうのって貴族なら事前に用意しておくものじゃないのかな、とも思わなくもないが、どうやら旧王都の破壊活動でドレスを発注していた仕立屋がだめになっていたとか。

 ともかく、ドレスがなくて困っているため私のところにお鉢が回ってきたみたい。


 うん、私は貴族相手の仕立屋じゃ……『魔法の蝶』は貴族相手の仕立屋だった。

 なにはともあれ、この依頼はローデンライト様直々のご依頼だし断るわけにもいかない。

 しばらくこの街に滞在してもらっていろいろと作ることになるけど、そこは付き合ってもらおう。

 さすがに私だって1日で何着もドレスが作れるわけじゃないからね。

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