307. ガレット領商業ギルド奪還戦
私たちとヴァードモイ侯爵家直下軍は街を進み、商業ギルド付近までやってきた。
そうなると当然、商業ギルドを包囲していた軍と出くわすわけである。
こっちはヴァードモイ侯爵家の旗も掲げての進軍だからわかりやすいしね。
あっちの部隊もこちらに対して盾を構え一触即発のムードだ。
あ、あちらから人が出てきた。
軍馬に乗っていて偉そうな人だ。
「お前たち、どこから現れた! 一体どこの所属だ!」
「所属は旗を見ればわかるだろう。それとも、国内にある貴族家の家紋も知らないのか?」
「なんだと? そんな物、いくらでも偽装することができるだろう!」
「……お前、本気でそんなことを言っているのか?」
ギャンさんも呆れているが、それはここにいる一同の総意だろう。
家紋付きの旗を偽造すれば厳しいおとがめが待っている。
それを承知で言っているのだろうか?
「まあ、いい。ここでお前と話していても無駄だ。我々はヴァードモイ侯爵家直下軍、ガレット領商業ギルドより援軍要請を受けこの地にやってきた」
「ヴァードモイ侯爵家? なぜヴァードモイ侯爵家が他領の商業ギルドに加担する」
「我が領の御用商人がそのギルドに物を納めているのも理由のひとつ。それに加え、領主様がコニエリット様に渡した金を奪おうとしている輩がいると聞き、派兵を決めたのだ。お前たちが退かないのであれば我々もお前たちと戦う準備がある」
「なにを小賢しい! 兵たちよ! この者たちは他領からの侵略軍である! 直ちに捕らえよ! 殺しても構わん!」
あの男がやっぱり指揮官か。
でも、威勢がいいのは指揮官だけでほかの兵士は怯えているね。
装備もあちらは剣と革の胴当てだけなのに、こちらはフルプレートに槍と盾付き、質が違う。
まともに戦ってもこちらに被害は出なさそうだなぁ。
「なにをしている! 早くかからんか!」
「し、しかし……」
「なにを怯えている! それでもモドワール様の直属兵か!」
うん、やはりコニエリット様のお兄さんの兵士か。
ここまで聞ければあとは用済みだね。
「タラト、キブリンキ・サルタス。やっちゃって!」
『わかった!』
『任せろ』
「なんだ!? 蜘蛛のモンスター! うわぁ!?」
モドワールの兵士たちはひとり残らずタラトの糸に絡め取られて動けなくなった。
キブリンキ・サルタスたちは裏門や周囲に隠れているかもしれない兵士の相手をしに行っている。
よし、完璧な制圧じゃないかな!
「……やはり、タラトの前では人の兵など塵芥も同然、か」
「なにか言いましたか、ギャンさん」
「いや、自分たちの無力さを実感していただけだ。それよりも兵たちをひとりずつに分けてはもらえないか」
「わかりました。タラト、お願いね」
タラトは指示通りまとめて捕らえていた兵士たちをひとりずつ改めて捕まえ直す。
繭から頭だけ出ている感じかな。
そういえば、あの立派な馬はどうするんだろう?
まあ、私はいらないけど。
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