429. メルト子爵の説得
ヴァードモイ侯爵様は、拘束されていたメルト子爵を応接室に呼び寄せてくれた。
さて、ここからが本番である。
「はじめましてですね、メルト子爵。私がリリィです」
「ほう。エルフとは聞いていたが、黒髪とは知らなかった。私がメルト子爵だ。まあ、いまは囚われの身だがな」
メルト子爵が自嘲気味に言うけど、実際囚われの身なんだから面白くはない。
それよりも、こっちの話を聞いてもらわないと。
「メルト子爵。あなたが解放され、マナスパイダーシルクの生産も軌道に乗るとすれば、こちらにつく用意はありますか?」
「なに?」
「リリィの出番はここまでだ。ここから先は、貴族同士、腹の探り合いといこうではないか」
「ヴァードモイ侯爵……いまの話は本当か?」
「あくまで計画段階の話に過ぎない。お前の領地にいるらしい、マナシルクスパイダーがリリィの言うことを聞くのであれば、なんらかの対価と引き換えに蜘蛛糸を譲ってもらえる可能性があるということだ。蜘蛛糸が増えればマナスパイダーシルクの増産も可能だろう?」
「そうだな。しかし、リリィと言ったか。随分、立派な蜘蛛を従えている様子だが、マナシルクスパイダーまで言うことを聞かせられるのか?」
うーん、そこが自信のないところなんだよね。
マナシルクスパイダーの生態系がまったくわからないから、なにを好んで食べるのかもさっぱりなんだよ。
そこから手探りになるけど、今回は正直に言うわけにもいかないよね。
「正直、わからん」
「ヴァードモイ侯爵様!?」
「まあ、黙って聞け。リリィは相棒をラージシルクスパイダーから、ラージマナシルクスパイダーに進化させて暮らしてきた。ラージマナシルクスパイダーの性質がマナシルクスパイダーと似ているのであれば、それを参考にできるだろう。もし違うとしても、話を聞くことで解決の糸口は見つかる」
「……なるほど。それで、我が領の特産品を復活させてどうするつもりだ。そこの娘のおかげで、衰退したというのに」
あ、やっぱり私がマナスパイダーシルクを大量に流したせいで産業が衰退したんだ。
無理矢理の参加ではあったけど、思うところはあったんだね。
「はっきりと言ってしまおう。メルト子爵、我らの側に寝返れ。そして、北の国にある市場をマナスパイダーシルクでかき乱すのだ。リリィのマナスパイダーシルクが流通していないいまならそれも可能なはずだぞ」
「……わかった。少し考えさせてもらいたい。王弟にはなにも恩がないが、王弟の配下になっている公爵殿下にはご恩があるのだ。できれば、その公爵殿下も救って差し上げてほしい」
ふむ、メルト子爵を引き入れるには、その公爵家を救うのが一番というわけか。
ややこしくなってきたぞ!
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