183. 卒業記念パーティ 3
○●○●コウ
結局、ヴィク様からは逃げられず、ヴィク様の兄上であるシャロン様とローデンライト様のもとに行くことになった。
どうしよう、私、このドレスに施されている仕掛けしか知らないんだけど!?
「ローデンライト様、シャロン兄上。コウ嬢をお連れしました」
「おお、ヴィク。ちょうどいい、お前たちの話をしていたところだ」
「僕たちの話、ですか?」
「ああ。お前のリードもよかったが、それ以上にコウ嬢のドレスの仕掛けには驚かされたよ。まさか、あのような裾を絞ったドレスで本当に踊れるのか気になっていたのだが、スカートが開くとは」
「ありがとうございます。我が家の仕立て師にも伝えておきます」
「仕立て師か。……変な話を聞くが、ヴァードモイ侯爵のお抱え仕立て師は行方不明になったと聞いているぞ?」
「そ、そんなことは……」
ど、どうしよう?
どう答えるべきなの!?
「兄上、コウ嬢をあまりいじめないでください。確かにそのような噂……というよりも、貧民街にうち捨てられていた死体がヴァードモイ侯爵の紋章の付いた服を着ていたのは事実ですが」
「そうだな。我が家でも調べたが、あれはヴァードモイ侯爵の紋章で間違いない。そして、紋章の種類からして仕立て師だ。その死体が見つかったのが1週間前、死体の腐り方からして死後数日は経っていたはず。そこにヴァードモイ侯爵の娘であるコウ嬢が見たこともないドレスをまとい現れたのだ。聞きたくもなるだろうよ」
「しかし、他家の話をあまり詮索するのは……」
「面白半分で聞いているわけではないぞ、ヴィク。我らマクファーレン家は王都の治安維持も担っている。そこで変死体など出れば調べるのも当然だろう」
「ですが……」
うーん、マクファーレン家って確かに王都の治安維持を任されているのよね。
それにしても行方不明になっていた仕立て師が死体で見つかっていただなんて。
私の耳に入っていなかったのか、お父様たちも知らないのか、どっちなんだろう?
「はあ、殿方は本当に気が利きませんね。このような場で無粋な話を続けるだなんて」
「むぅ……しかしながら、ローデンライト様」
「調べるのでしたらしかるべき手段を用いて調べるべきでしょう? なにもパーティの場で不意打ちなどせずに」
「それは……そうなのですが」
「では、この話はここまで。それでは、私からヴァードモイ様への質問です。あなたのドレス、どのような生地で出来ているのでしょう?」
「これですか? 実は布を用意した仕立て師にも微妙にはぐらかされているんですよね。『スパイダーシルクよりちょっと上の布』とは聞いてきたのですが」
「スパイダーシルクの上。やはりマナスパイダーシルク? でも、それにしては光沢が……」
うーん、私も自領で取り扱っている品ということでマナスパイダーシルクは触ったことがあるんだけど、いまのドレスの方が光沢はあるのよね。
肌触りはどちらもあまり変わらないんだけど……一体どういう布なんだろう?
「布か、無骨な武人である私たちにはわからぬな」
「そうですね。それより少し喉が渇きました。すみません、飲み物を」
ヴィク様がウェイターを呼んでドリンクを持ってくるように伝えた。
すぐにドリンクはもらえたんだけど、受け取った左腕の刺繍が紫色に変色する。
これって!?
「皆さん、これ、毒です!」
「え!?」
「なに!?」
「コウ嬢、なぜ……いや、そこのウェイターを捕らえ……もういない!?」
ヴィク様が指示を出そうとしたけど一歩遅かったみたい。
さっきのウェイターは人混みに紛れてどこかに行ってしまった。
それよりも、私が毒だと看破した理由、どうやって説明しよう……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます