392. 最後の訪問地

 ジュネブ子爵領を出たあとも交渉はサクサク進んでいった。

 サルタス商会の話も野菜と穀物の流通だけならすんなり通ったし、問題はないだろう。

 御用商人にまでなったジュネブ子爵家が特別なだけだし、あそこの領地は畜産と孤児院の運営もあるのでやることの幅が広いだけだ。

 ほかの領地では作物の売買と運搬の許可だけもらえれば十分である。


 そのようにして私たちの旅は順調に進み、最後の目的地であるオクシット男爵領までたどり着いた。

 ここに来るのは2回目だけど、やっぱりのどかな場所だな。


 しばらく進んで丘の上で休憩していると、こちらに向かって道を進んでくる馬車と騎兵たちが見えた。

 一体、なんの騒ぎだろう?


「さて、ここからがオクシット男爵領になるのだが……おや?」


「旗を掲げた兵士と馬車がいますね、ヴァードモイ侯爵様」


「ふむ、あれはオクシット男爵家の旗だな。なにかあったのだろうか」


「私たちを出迎えに来たのでしょうか?」


「その可能性が高いな。あの程度の数で我々を討ち取りに来たはずもあるまい」


「……まあ、キブリンキ・サルタスたちの数より少ないですからね」


「キブリンキ・サルタスたちの数は事前にあちらから申請があったのだ。そこを読み違えるはずもあるまいよ」


 そのまま丘の上に陣取って待っていると、騎兵たちはある程度離れた場所で止まり、馬車だけが進み出てきた。

 そして、馬車の中からオクシット男爵と若い男性、それからモイラちゃんが姿を現す。

 若い男の人はオクシット男爵の長男とかかな?


「お待ちしておりました、ヴァードモイ侯爵閣下。ようこそおいでくださいました」


「うむ。オクシット男爵も元気そうだな。しかし、このような出迎えなどしなくてもよかったものを」


「いえ、そうは参りません。ヴァードモイ侯爵閣下にもリリィ様にも以前大変お世話になりました。しっかりとごあいさつせねば」


「そうか。そちらは長男のルジアだったな。息災だったか?」


「はい。おかげさまで父の下、領政の勉学に励んでおります。それから、妹のモイラには良縁を運んでくださりありがとうございます」


「気にするな。モイラも元気にしているようだな」


「はい。ベルン様にはいまでも文通をさせていただいており、仲良くしていただいております」


「そうだったか。ベルンもそういうことであれば事前になにか言ってくれればいいものを」


 モイラちゃんとベルンちゃんはいまでも交流があるのか。

 でも、ヴァードモイ侯爵様もそれは知らされてなかったようだね。

 なにか言っていればお土産のひとつでも持ってきたんだけど。

 ……その場合は私のドレスとかになるのかな?


 まあ、ともかくオクシット男爵領にはたどり着いた。

 この領地ではどういう風にキブリンキ・サルタスを使うつもりなんだろう?

 最初から大勢をお願いされていたし、いろいろとやりたいことがあるんだろうな。

 さて、キブリンキ・サルタスはそれに応えてくれるかな?

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