391. ジュネブの孤児院を訪問

 3日後にはジュネブ子爵家の御用商人は元御用商人となり、街を追われたらしい。

 その時、ごっそりと制裁金や追徴課税を取っておいたから復活することはできないだろうとアリゼさんから言われた。

 どうにも銀商人としては小物だったみたいだ。


 こうして私たちがジュネブ子爵家に留まり続ける理由もなくなり、明日には次の家へと出発することになった。

 その前にやっておきたいのは孤児院との顔合わせである。

 早速だがちょっと行ってみよう。

 ジュネブ子爵も一緒に来てくれるみたいだし。


 ジュネブの孤児院は街の端にある日当たりの悪い場所にあった。

 扉などもぼろぼろで隙間風などもひどそう。

 これはまず傷んでる箇所の修理からだね。


「アリゼさん、孤児院の修理箇所を洗い出して修理してもらうように通知を出してもらってもいいですか?」


「かしこまりました。では、そのように」


 アリゼさんとしても反対はないようだ。

 これから長い付き合いとなるであろう孤児院とは友好的な関係を結びたいね。


 孤児院に着いたら、まずジュネブ子爵に状況を説明してもらう。

 いきなり私たちが出ていっても信用してもらえるかは怪しい。

 やっぱり領地の代表者にあいさつしてもらわないと。


「お話しはわかりました。それで、その商人様はどちらにおられるのでしょう?」


「あちらのエルフ殿だ。見た目は若いが、私よりもしっかりしているかもしれないぞ」


「まあ! とんだご無礼を!」


「いえ、気にしていません。本当に若輩者なので貫禄のある商人には見えませんからね」


 立ち話もなんなので、孤児院の中に入れてもらい、いまの運営状況について話を聞かせてもらった。

 結果としては、経営が成り立っていないようだ。


「まず、子供たちの食事が足りません。服もぼろぼろで買い換えてあげることができません。寝具も冬になると風邪を引く子が続出するほど古い物になっております」


「なるほど。では、最初に食料から支援しますね。お肉でしたらすぐにでも用意できそうです。野菜は……ヴァードモイからの輸送になるので少し待ってください。その時に新しい服と寝具も届けます」


 この街で野菜を買おうとするとかなり高くつく。

 ヴァードモイから輸送した方が安いのだ。

 それに、最初は衣類や寝具も一緒に運ばなくちゃいけないので輸送費を圧縮できる。

 冬になる前に保存の利く野菜はまとめて輸送してもらおう。

 肉はキブリンキ・サルタスたちに頼んでアンガーチキンを狩ってきてもらう。

 ちょっと距離は離れているけど、アンガーチキンの群棲地があることはアリゼさんから聞いているのだ。

 昨日のうちにキブリンキ・サルタスたちにはお願いしてあるので、今日の夕方前には第1便が届くはず。

 アンガーチキンは羽毛なども値が付くから、羽毛はサルタス商会の取り分にして肉はすべて孤児院に引き渡す。

 それで十分利益は出るはずだ。


「あの、そこまでしていただけるのはなぜでしょう? 前の商人の方にはなんとかやっていけるだけの支援しかしてもらえなかったのですが……」


「もちろん、私にも考えがあります。まず、子供たちには読み書きと計算、それから護身術程度の武術を覚えてもらいます。その上で帳簿の付け方まで学んでもらいます。そうして私の商会の一員として雇い、これから各地に作る予定の支店に散らばって活躍してもらいます」


「帳簿……そんな高等なことができるでしょうか?」


「何事もやってみてからですよ。あ、それでも冒険者などになりたい子がいたら別途支援をします。黒階級程度が使える武器と防具、それから支度金を渡す程度になります」


「それでも十分です!」


 そのあとは子供たちの様子を少し見せてもらってから帰ることにした。

 先生の話通り、子供たちはお腹を空かせ、ボロの服を身にまとい、部屋を見せてもらうと傷んだ寝具を使って寝ている様子だ。

 これは早急な支援が必要だね。

 ちょっと鳥便を使ってヴァードモイに連絡し、私たちが帰る前に最初の支援をしてもらおう。

 冬を迎える前に全部の支援を終えたいね。

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