第一章 八座神の大神殿

458. 八座のひとり、キリ

 数日後、コウロさんの上司がヴァードモイに到着したと連絡があったので、八座神の神殿に向かう。

 最初は私の家に来てくれると言っていたんだけど、私の家ってそんな偉い人をもてなせるような作りになってないんだよね。

 タラトやキブリンキ・サルタスたちのおかげで防犯体制だけはヴァードモイ侯爵様のお屋敷より厳重なんだけど。


 ともかく、私はプラムさんやケウコさんたちと迎えの馬車に乗り込み八座神の神殿へやってきたわけだ。

 そこで控えの間に通され、しばらくすると面会の準備が整ったそうなので応接室へ移動する。

 コウロさんからは、今日会う人についてなんの情報も聞いてないけど大丈夫なんだろうか?

 というか、コウロさんは説明しておくべきなのでは?


「キリ八座様、コウロ神殿長。リリィ様たちをお連れいたしました」


「はい。入ってもらいなさい」


 考えごとをしている間に応接室へ着いてしまったようだ。

 今日会う人はキリという人なんだね。

 でも、『八座』ってどういう意味なんだろ?


「失礼します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 室内に入るとコウロさんと三度笠のようなかぶり物にベールを降ろして顔を隠した人がいた。

 体系的に女性に見えるが、どうなんだろ?


「なんのなんの。本来でしたら、私どもがリリィさんの元へあいさつに向かわねばならないのですからお気になさらず」


「そうですか? ところで、そちらの方は?」


「私の上司であられる、水の八座、キリ様です。ああ、リリィさんには八座神の階級についてお話していませんでしたな。まずはそこから説明いたしましょう。とりあえず、おかけになってください」


 私たちは席に着き、コウロさんから八座神の宗教内における階級制度について教えてもらった。


 まず、一番下の階級が僧弟といわれる階級で、入門者の多くはここからスタートする。

 二番目が祭司で僧弟を束ねる階級。

 ここまでは職人だと見習いと半人前の弟子というところらしい。


 次が高祭司で祭司のまとめ役になる。

 高祭司になると小さな神殿を任されることもあるそうだ。


 その次はコウロさんも任されている神司となり、ここからはものすごく人数が少ないみたいである。

 神司の役割は小さな神殿を束ねる指示役だったり、ヴァードモイの神殿のような大きな街の神殿の神殿長だったりとなる。

 要するに、エリートって感じだね。


 そのあともいくつか役職が挟まるみたいだけど、最高位が八座で最高意思決定権を持つ八人の集まりらしい。

 基本的に合議制を取っているので勝手なこともできないようだ。

 本当に民主的な宗教である。


「それで、その最高位の方がそちらにおられるキリ様と?」


「そうなります。それではキリ様、あとはよろしくお願いいたします」


 あとはよろしくって。

 それでいいのか、コウロさん。


「相変わらずですね、コウロは。入信したときから目上の者であろうと物ごとを任せるのは変わっておりません」


「そういう性分なものでして」


「まったく。さて、いつまでも顔を隠していては不敬になりましょう。いま帽子を脱ぎますね」


「え? いいんですか? 宗教的に顔を隠さなくてはいけないとかなんじゃ?」


「宗教的な話ではございません。表情で気取られないよう顔を隠すのが外部の者と会うときの一般的な方法ですが、今回はお願いしてまで面会しているのです。礼は尽くしませんと」


 そう言って帽子を外したキリ様の素顔はとっても若々しい。

 そして、耳にとても特徴がある。

 キリ様ってエルフだったんだ。


「改めて自己紹介を。八座神、当代の水の八座、キリと申します。本日はお忙しい中、ご足労いただき感謝いたします」

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