459. キリの願い
帽子を外したキリ様は、ピンクブロンドと青い目が特徴的な顔立ちをしていた。
エルフなので見た目では年齢を推し量れないけど、何歳くらいなんだろう?
「本日の用件を述べる前にお礼を。八座神の神殿を学校に併設していただきありがとうございます。八座神の教えは無理に広めるものではないと言えど、やはり人の心のよりどころとして機能するもの。その機会を広げてくださり感謝いたします」
「いえ。私も学校を建てるのにヴァードモイ侯爵様から条件として出されましたので」
「それでもです。それに、通っている子供たちには昼食を無料で振る舞ってくれているとのこと。かような施し、感謝に堪えません」
私の好きでやっていることだし、そこまで感謝されることでもないんだけどな。
やっぱり、食育も重要だと思うし。
「さて、本題に入りましょう。リリィ様の従魔であられるキブリンキ・サルタス様、その子たちを少し預けてはもらえないでしょうか?」
「キブリンキ・サルタスたちをですか? 開拓でもするのでしょうか?」
「開拓といいますか、私どもを信仰してくださっている地方で干ばつが起こり農作物に被害が出ているのです。なにかお力添えをいただければと」
「干ばつですか。それだと、ちょっと難しいかも」
「そうなのですか? キブリンキ・サルタス様方は農業用水も引いていると伺いましたが」
なるほど、結構調べてきてるんだ。
でも、水路を引いたのはキブリンキ・サルタスなんだけど、池を作ったのはキブリンキ・サルタスたちじゃないんだよね。
知っている人は知っている内容だし、話してもいいか。
「キブリンキ・サルタスたちは用水路を掘っているだけです。水源を作っているのはタラトの力ですね」
「そうだったのですか。では、タラト様のお力を借りることは可能でしょうか?」
「タラトはちょっと難しいかもしれません。私も一緒に行かなくちゃいけないので」
この3年間でできることは増えたんだけど、制限も増えた。
その最たるものが、街を勝手に離れられなくなったことだ。
王弟との一件でタラトの戦力が大々的に知られた結果、タラトを危険視する声も出てきたんだよね。
ある意味しょうがないし、予想はできていたんだけど、ヴァードモイ侯爵様の敵対派閥からの声が大きく、私はあまり出歩けなくなってしまった。
ヴァードモイ侯爵様の領内なら好きに出歩けるんだけど、その外となるとヴァードモイ侯爵様と公王陛下に許可を取らなくちゃいけないんだよね。
ちょっと面倒くさい。
「そうでしたか。では、ヴァードモイ侯爵様と公王陛下の許可があれば来ていただけるのですか?」
「まあ、ため池を作りに行くだけでしたら。でも、キブリンキ・サルタスたちは貸せないと思います。あの子たちは読心術も使えるので、やっぱりヴァードモイ侯爵様の影響圏から出られないんですよ」
「なるほど。聞いている話よりも万能なんですね。わかりました、キブリンキ・サルタス様のことは諦めましょう。代わりに、ヴァードモイ侯爵様に農業支援のお願いをして参ります」
キブリンキ・サルタスたちのおかげで様々な農業技術や知識が集まったからなぁ。
その技術をどこまで出すのかはわからないけど、土台だけはしっかりある。
この3年間でここも進歩したんだよね。
「それでは、この話はヴァードモイ侯爵様と公王陛下にお願いいたします。あと、お願いいたしたいのは、私どもの国でも学校を作ってはいただけないでしょうか?」
学校か……これも揉めそうだなぁ。
話だけでも聞いてみるか。
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