8. 宿『大鷲の巣』

 私はマイスさんのお勧めしてくれた宿、『大鷲の巣』へと向かう。

 事前に場所も聞いていたので道に迷うことはなかった。

 たどり着いた宿は冒険者ギルドと同じく三階建てで、ちょっと年季が入っている宿のようだ。

 ただ、玄関などはしっかり掃除がしてあるので期待出来る。

 いつまでも玄関を見ていてもしょうがないし、宿へと入ろう。


「いらっしゃいませ、大鷲の巣へようこそ!」


 宿に入ると私よりも少し年下くらいの女の子が出迎えてくれた。

 彼女がここの店員だろうか。


「初めまして。泊めてほしいんだけど、部屋は空いてる? あ、従魔も一緒に泊まりたいの」


「従魔……テイマーさんが来るのは久しぶりです。もちろん空いてますよ。テイマー向けのお部屋になると、広い分料金が高くなりますが構いませんか?」


「ええ、大丈夫。ちなみに一泊いくら?」


「一泊夕食と朝食付きで800ルビスです。食事抜きだと750ルビスになります。従魔の食事代は別になりますがどうしますか?」


 タラトの食事は別か。

 そういえば、タラトってなにを食べるんだろう?

 モンスターを狩っていたっていうことは、お肉は食べられると思うんだけど。


「ねえ、タラト。あなたってなにを食べるの?」


『基本はお肉だけどなんでも食べられるよ。でも、魔石が一番好き』


 魔石かぁ。

 さすがに宿屋では売ってないだろうから今日はお肉で我慢してもらおう。


「タラトは肉食みたいだからお肉を用意してもらいたいんだけど、いくらくらいになる?」


「えっと、食べる量と内容によります。焼いた方がいいのか生のままでいいのかにもよりますし……」


 ああ、それもそうか。

 でも、タラトがどれくらい食べるかわからないんだよね……。

 念のためタラトに聞いてみると、今日は食べなくても大丈夫と言われた。

 でも、私だけ食事するのも気が引けるので、一般的な人が食べる大きさの肉を用意してもらうことにする。

 追加料金は30ルビスだって。


「それじゃあ、とりあえず二泊をお願いします」


「わかりました。前料金になりますが大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。じゃあ、はい、これ」


「はい、確かに預かりました。夕食はもう食べることができますがどうしますか? お部屋で食べることもできますが、お部屋で食べる場合は追加料金として10ルビスいただきます」


「食堂で食べます。タラトも一緒で大丈夫?」


「この宿は従魔連れのお客様を前提としているので、よほど大型の従魔でない限り同伴しても大丈夫です。お部屋は三階の一番奥の部屋になります。それと、これが今日の夕食と明日の朝の食券です。なくしたら食べられませんので注意してください」


「ありがとう。それじゃあ、食堂に行かせてもらうね」


「わかりました。どうぞごゆっくり」


 女の子に見送られて宿の奥にある食堂へと足を運んだ。

 そこでは先客たちが思い思いの席に座って食事を取っている。

 私がタラトを連れて食堂に入ってきたときは注目を集めたけど、すぐに視線は散っていった。

 この宿がテイマー向けというのもあるんだろうね。


 私も空いている席に座り、食券を渡して食事が運ばれてくるのを待った。

 今日の夕食はなにかの肉のステーキにスープ、サラダ、パンの組み合わせみたい。

 ステーキはそれなりに厚く大きいけど何のお肉なんだろう?

 やっぱりモンスターかな?

 食べてみると美味しかったから気にしないことにしたけど。

 タラトにも同じステーキが運ばれてきて、美味しそうに食べている。

 タラトのお肉にも味付けされているみたいだけど、本人いわく『味付けされていても大丈夫』らしいから問題ないか。


 食事が終わったら割り当てられた部屋へ行き、リュックを降ろして旅装を解いた。

 女神様の本によると安宿では内鍵が付いていないところもあるらしいけど、この宿には内鍵も付いているようで安心。

 あと、シャワーとトイレも付いている。

 この世界って温水シャワーが普通にあるし、トイレも水洗なんだよね。

 下水道も発達しているみたいなんだけど、文明レベルはよくわからないな。

 お風呂は高級宿にしかないみたいだから我慢しよう。


 シャワーを浴びてすっきりしたら寝間着に着替えてベッドで寝るだけだ。

 ベッドも小屋にあった物に比べると硬いけど、それでも十分に柔らかい。

 今日はゆっくり眠れそう。

 いつの間にかタラトも眠っているみたいだし、私ももう寝なくちゃ。

 昼間は歩き通しだったからね。

 それでは、お休みなさい。

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