405. 北の貴族
○●○●○リリィ
早速、キブリンキ・サルタスたちが情報を持ち帰ってくれたんだけど、『メルト子爵』という名前も『モロガワード侯爵』という名前も知らない。
私も商売の都合上、この国の貴族の名前はそれなりに覚えさせられたんだけど聞かない名だ。
つまりこの国の貴族ではないんだろうか?
ともかく、街の北に陣地が築かれているのは確定だし、急いでヴァードモイ侯爵様に知らせないと。
「……ふむ、街の北に陣地か」
「あ、信じてませんか?」
「いや、信じておる。信じているからこそ、なぜそのような真似をしたのかが理解できん」
緊急ということで屋敷の中に通してもらい、ヴァードモイ侯爵様と面談している。
その中でキブリンキ・サルタスたちが調べてきた情報を共有しているのだけど、どうにも腑に落ちないことがあるらしい。
わざわざこの時期にヴァードモイを攻める理由だ。
「ヴァードモイは確かに商業都市であり流通拠点だ。様々な物資もこの街を通っていく。だが、それらを奪うにしてもお粗末すぎるのではないか? 私ならもっと遅い時期、年貢の麦が集まった頃を襲うのだが」
「ですよねぇ。いま積極的に襲う理由ってないですよね」
「うむ。それにお前が教えてくれた貴族の名にも疑問があるな」
「メルト子爵にモロガワード侯爵ですか? お知り合いなんですか?」
「メルト子爵は直接の面識がない。ただ、細々とマナスパイダーシルクを作り続けていた貴族家だったはずだ。そうなると見えてくるのは、マナスパイダーシルクを量産できるリリィの始末だな」
「……私、知らないところで恨みを買ってましたかね?」
「商売をするということはそういうものだ。それに、マナスパイダーシルクがよく流通するおかげで、あの領地のマナスパイダーシルクもよく売れるようになったと聞いたのだが」
うーん、ここははっきりしないところだね。
仕方がないから、そのメルト子爵は捕まえてから聞いてみよう。
問題はモロガワード侯爵という人の方なんだ。
この人、どうやら旧王国時代からヴァードモイ侯爵様と因縁のある相手らしい。
今回のヴァードモイ攻めはその延長線上だろうという推測されている。
「あの男はどこまでいっても強欲だ。我が領で特産品を増やせばそれを寄こせといいだしてみたり、我が領から出発した積み荷に多額の税をかけたり。ヴァードモイに対する嫌がらせを挙げればいとまがない。今回はその集大成といったところか」
「うーん、なにがそんなに気に食わないんでしょうね?」
「元々、やつの領地は北部でヴァードモイ並みに栄えていたのだよ。だが、やつの父が暗愚なせいで家が傾き、街も一気に衰退した。やつ自身も賢いとはいえず、外部からの税金を搾り取ることでしか税収を維持できていない。同じ時期に栄えており、没落していないヴァードモイは目の敵なのだろうさ」
要するに八つ当たりか。
東にあるというもうひとつの陣地は念のためキブリンキ・サルタスたちに調べてもらってある程度の規模を把握しておこう。
それにしても、戦争かぁ。
始まる前に終わらせたいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます