386. ジュネブ子爵家の土地

 翌朝、ジュネブ子爵も一緒に候補地へと連れて行ってもらったんだけど……うん、農作業には向かない土地かなぁ。

 ちょっと難しそう。

 ヴァードモイ侯爵様も顔をしかめているし、さすがにここはなぁ。


「ジュネブ子爵、ここしかなかったのかね?」


「それが……近隣となると、これでもまだまともな場所でして」


「なに?」


「もちろん、もっと農業のしやすい場所はあるのですが、そこはすでに村ができております。それ以外で、もっとも農業がしやすい場所がここになってしまうのです」


 うーん、農業に適しているって言われてもなぁ。

 私は土をつまみ上げてみたけど、土には湿り気がほとんどなくパラパラとこぼれ落ちた。

 森が近いのも難点だろう。

 キブリンキ・サルタスたちは気にしないだろうけど、野生動物がお野菜を狙ってくるかもしれない。

 どうしたものか。


『よし。ここで手を打とう』


「いいの、キブリンキ・サルタス?」


『この男の言っていることには嘘がなかった。それほど貧しい土地なのだろう』


 なるほど、これでもまだマシな方なのか。

 さて、これからどうしよう。

 まずは農業用の水の確保だよね。

 そこはどうするつもりなのか。


『農業用水か? タラトに手伝ってもらうつもりだが』


『僕?』


『地下水脈から水を沸き出させてため池にしてほしい。できるか?』


『それくらい楽勝だけど、ため池の場所と穴はどうするの?』


『場所はこれから決める。穴は……すまないがタラトに掘ってもらいたい』


『わかった。それじゃあ、指示してね』


 キブリンキ・サルタスたちはタラトを連れて村予定地の中を歩き回っている。

 畑の区画を考えてどこにため池を造るのか相談しているみたい。

 だけど、タラトを使ってため池かぁ。

 大胆な方法を考えついたものだね。


『よし、この辺りがいいだろう。タラト、先ほど送ったイメージ通りの池を造ってくれ』


『うん、わかった。それじゃあ、始めるね』


 タラトが地面に魔力を注いでいき、まずはため池の元となるくぼみができあがった。

 そのくぼみだが、底が浅く、キブリンキ・サルタスたちが入っても問題ない深さになっている。

 これでいいのかな?


『くぼみはこれでいいな。次、地下水をここまで運んできてくれ』


『いいよ。……あれ、途中に硬い岩の層がある』


『難しいか?』


『ううん。ちょっと引っかかっただけ。それじゃあ、水が出るよ!』


 タラトの宣言とともに地面から水が勢いよく噴き出した。

 もっとも、勢いがよかったのは最初だけで、すぐに勢いは収まりため池を満たしてあふれ出す程度になっていくだけだ。

 でも、あふれ出している分はどうするつもりだろう?


『よしよし。ため池からあふれる程度の水が出ているな』


『ちょっと多すぎた?』


『いや。用水路を引き、周囲の土地に潤いを与えるにはちょうどいい。助かったぞ、タラト』


『うん!』


 そこまで計算済みか。

 本当にできる蜘蛛たちだ。

 それにしても、タラトにとっては地下水を引き上げることも朝飯前なんだね。

 さすがはタラチュナトスといったところかな。

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