205. 愚王の末路

 タラトの糸に絡め取られて動けなくなったこの国の王様。

 どうしようか、これ。


「リリィ、それをもらってもよいかの?」


「あ、はい。プラムさん、どうぞ。タラトもいいよね?」


『いいよ。ほしくないし』


「うむ。……さて、名前も知らぬ愚王よ。呪玉を王家の秘宝と呼んでいた理由を聞こうか?」


「ふん! なぜお前らなぞに!?」


 うわ、プラムさんの蹴りが王様のみぞおちに入った。

 すごく痛そう。


「お主に拒否権などない。重ねて問おう、なぜ呪玉を奪おうとした?」


「決まっている。あれは我が王家に下賜された物。それを奪った者どもから奪い返してなにが悪い?」


「ふむ。呪玉とはなにか知っておるのか?」


「高純度な魔石だろう! そんなことを……」


「あれは魔人族を閉じ込め魔力を吸い出すことで魔石の代用品として作用するようにした呪具だ」


「な……。いや、魔人族など減ったところで!?」


「下らぬな。お主も人間至上主義者か」


 人間至上主義?

 ルマジャさんにこっそり聞いたら、人間族こそがすべての頂点でありそれ以外の種族は人間族のしもべであるという考え方らしい。

 なにそれ、失礼な。

 でも、この考えを持っている貴族はこの国でも多いそうだ。

 特に前に話にあったゲイズ教と関係のある貴族はこの考えの熱心な信奉者なんだってさ。

 貴族って面倒くさい。


「くくく……。なにを考えているのかは知らぬが、呪玉を返すといい。いまならば命の保証はしてやろう」


「ふん、身動きもできず、自分の身の安全すら守れない者がなにを言うか」


「そうか、残念だ。おい、こいつらを始末しろ!」


 王様が声を張り上げるとどこからともなくナイフが私たちめがけて飛んできた。

 1本や2本じゃなく何十本も飛んできているのでかわせない!


「キュイ!」


 あ、タラトが私たちの周りに糸で壁を作ってくれた。

 これなら……って!?

 糸に刺さってるナイフの周りが溶けてる!

 このナイフ、毒つき!?


「……ふん、報告にあったフロストスパイダーか」


 糸の壁が消えてなくなると、私たちの周りを取り囲むようにして真っ黒な服と仮面で体を隠した集団がいた。

 どこから出てきたの?


「ほう。お主らは……問うまでもない、異端懲罰官だな」


「これから死にゆく者に答える義理などない。その前に、ゴミを始末せねばな」


「ゴミ?」


「ああ、ゴミだ」


 仮面の人物が一瞬で消えたかと思うとその次の瞬間には王様の首がはねられていた。

 あれ、王様の味方じゃないの?


「……使えなくなればすぐに消すか。屑どもが」


「この国の役立たずどもには消えてもらわねばならん。主犯はお前たちだ」


「役立たず〝ども〟?」


「ああ。そろそろ頃合いだ」


 仮面が言った途端、遠くで爆発音が聞こえた。

 それは幾重にも重なって聞こえ、ついにはものすごく近い場所でも聞こえてくるようになる。

 こいつら、なにをやってるの!?


「お得意の破壊工作か!」


「さて、なんのことかな? では、我々はこれで……」


「逃がすと思っているのか?」


「ッ!?」


 仮面の後ろにいつの間にかサザビー様が回り込んでいて鋭い斬撃を放った。

 仮面はぎりぎりのところで攻撃を回避し、サザビー様から距離を取る。

 これには仮面の連中も驚いたようだね。


「貴様らがなにを企んでいようが私はそれを遮らせてもらう。降下せよ、我が軍たちよ!」


 サザビー様が叫ぶと謁見の間の壁が外から吹き飛ばされ、そこからSFスーツみたいな鎧を着た人たちが続々入ってくる。

 持っている武器もレーザーブレードみたいな装備だし、なんなの!?


「……ダーシェ公国の空挺部隊!」


「悪いが準備する時間は十分にあったのでな。この王都を落とす準備は既にしてあったのだよ」


 なに、なんなの!?

 もう話に付いていけないんだけど!

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