484. 歓迎会 振袖と絹
キクリ様とのお話も終わり、夕方になるといよいよ歓迎会が始まった。
マクファーレン公国側からは私とアミラ、プラムさん、山猫の爪のみんな、プリシラさん、アリゼさん。
八天座の島からは八座様と今回の交渉を担当する実務の神官が数名参加している。
マクファーレン公国側で一番上座に座っているのは私だ。
プリシラさんから譲られて座っている。
いいのか、これ?
「振袖だったか。本当に美しい織物を着ているのう。どうやって作ったんじゃ?」
私に質問してきたのは、火の座であるドワーフのお爺ちゃん。
この人がとにかくお酒を飲んで翌日潰れるらしい。
お酒が好きだし絡み酒はしないそうなのだが、二日酔いには弱いそうなのだ。
ドワーフってお酒に強いイメージがあったけど、個人差があるみたい。
「私の場合、魔法紡織と魔法裁縫、それから魔法刺繍で作っています。色は万能染色剤で塗っていますね」
「ふむ? 儂の知る限り、万能染色剤とはそんな見事な発色をすることができぬはずじゃが? 下地が相当よい絹なのはわかるが、本当に万能染色剤か?」
「はい。万能染色剤を百回以上使って色を塗り重ね、濃淡や柄を出しています。わかる人じゃないとわからないみたいなんですけど、花の刺繍だけでも10色以上にしているんですよ」
「10色じゃと? 本当か、キクリ?」
「あんた、染め物も含めた技術担当の火の座だろう? なんで私に意見を求めるさね?」
「いや、こういう色を見分けるのは妖花族が得意じゃろ?」
「じゃあ、応えよう。確かに、花1輪を染めるのに10色以上の色を使っている。魔法刺繍の技術について私は知らないが、刺繍も細かいのにその中の塗りもさらに細かい。正直、同じ色の刺繍糸を使って柄を再現した方が安いんじゃないかとも思うよ」
そうなんだよねぇ。
着物の技術を私が独占するのも悪くはない。
もっと簡単なものは流行らせてもいいかなって考えて浴衣を作ろうと思ったんだけど、柄をどうやって作るかで躓いてしまった。
無地の木綿に染色するだけならいけるが、どうしても柄付きになるとコストが上がるんだよね。
簡単な刺繍の着物の開発は研究として続けているけど、一般に普及するのは無理かな。
あと、習慣的に浴衣みたいな薄着はあまり好まれなかった。
ちょっと刺激的だったのかもしれない。
女性の部屋着として広まったみたいだけどね。
「ううむ。しかし、贅沢に絹を使った染め物か。儂もやってみたいのう」
「八天座の島では絹を生産していないんですか?」
「お蚕様からの絹は作っとるよ。しかし、交流の手土産として渡されたもののように、輝くような白さを持つ絹はいまだに作れなんだ」
「うーん。私のスパイダーシルクは青に近い白ですけど、蚕から作った絹って黄金に近い白ですよね? それならそちらを活かしては?」
「やはりそれがよいか。服作りをしている若い衆から、もっと白い絹を用意できないかと相談されていたのじゃが、別の道を探る方がよいじゃろうな」
「その方がいいと思います。私も蚕から作られたシルクの色を使いたいときは、染色剤で一度染めてますから」
「そうか。やはり、互いのないものはよく見えるのじゃな」
「そういうことです」
歓迎会が終わったらプリシラさんと相談してこの土地の絹を輸入できないか検討しようかな?
代わりに私のスパイダーシルクを輸出することで。
レートが難しいかもしれないけど、そこは商業ギルドがうまいことやってくれるでしょう。
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