445. リリィの賠償請求
とりあえず、私に対する視線は振り切った。
私は絶対に貴族なんかになりたくないからね!
空いた領地の貴族問題もプラファード公爵に頑張ってもらおう。
そちらの追求を振り切った後は、いよいよ賠償責任の交渉に入る。
コリニアスとその一派がヴァードモイを攻めたときの賠償金の請求だね。
プラファード公爵もこれについては反対しなかったんだけど、少し待ってほしいようだ。
なにかあったのだろうか?
「魔法金属なのだが、この街では保管されていないのだよ。別の街で保管されている。幸い、コリニアスの派閥ではないので、指示を出せばすぐに持ってきてくれるだろうが、それにも数日かかる。申し訳ないが、それまで屋敷に逗留してもらいたい」
「そういうことであれば仕方がありませんな。リリィ、お前からの請求は結局なににするのだ?」
「そうですね……じゃあ、教師ができるような人を紹介してください」
「教師……なぜかね?」
「ヴァードモイ侯爵様の派閥の一部で、ちょっと特殊な計算方法を教えたい場所があるんです。でも、そこに行ってくれる教師が見つからずに困っていて」
「ふむ。教師、教師か……。おい、ハニエラを呼べ」
プラファード公爵が誰かを呼び出した。
一体誰だろう?
プラファード公爵家の家庭教師とかかな?
「お父様、お呼びでしょうか?」
「ああ。こちらのリリィ殿が教師を募集しているらしい。すまないが、お前が行ってはもらえないか?」
「よろしいのですか? そうなると、私の結婚が」
「第三貴族派閥の公爵家との縁組みなど破棄だ。どうあがいても復縁はない。お前もその歳で新しい婚約者を見つけるのは難しかろう。どうだ、教師としてリリィ殿と一緒に行ってはもらえぬか?」
「わかりました。このハニエラ、残りの生涯を教師として捧げていきましょう」
「うむ。頼むぞ」
なんだか、あちらで話がまとまったらしい。
結局どうなったのか聞いてみたんだけど、このハニエラという女性が私たちと一緒に来てくれるそうだ。
でも、本当にいいのかな?
「ハニエラさん、本当によろしいのですか? 話を聞く限りですと、プラファード公爵様の血縁関係とお見受けするのですが」
「はい。私は長女となります。ただ、婚約先が第三王子派閥に付いた公爵家だったため、結婚できずに宙に浮いた形となっていました。あの方への未練がないと言えば嘘になりますが、民のことを顧みず、内戦に明け暮れている王子を諫められないようではどうしようもありません。……私も、似たようなものだったのですが」
「うーん、それに教える相手って孤児院の子供たちですよ? 最初は簡単な読み書きから始めますが、最終的には帳簿の付け方まで教えてもらうつもりです」
「ちょ、帳簿の付け方!? 孤児院の子供たちにですか!?」
「はい。ちょっと変わった帳簿の付け方を学んでもらおうと考えてまして。ただ、教えられる教師がいなかったんですよ。ヴァードモイじゃなくてちょっと田舎の方にも行かなくちゃいけないものですから」
「そんな、孤児院の子供たちに帳簿の付け方を教えるだなんて。それは大丈夫なんですか?」
大丈夫?
なにがだろう。
詳しく聞いてみると、孤児院出身という身元不詳な子供に大事な金銭の付け方を教えても大丈夫なのかという話だった。
ああ、そういうことか。
「それは、まあ、試してみないとわからないというか、最初は私のお店で試してみます。それで問題なければ、商業ギルドでも雇ってもらえるようにお願いし、そこから少しずつ広がればなと」
「そんな。帳簿をつけるということは、金銭を一手に扱う金庫番ということでもあるんですよ? そんな重大な役目に孤児院の出身者なんかが……」
「ものは試しです。だめだったらだめだったときで、また新しく教育方針を考えます。とにかく、一緒に来ていただけますか?」
「は、はい。それは構いません。むしろ、私の身ひとつで済むのでしたら安いものですので」
別に人身売買をしたいわけじゃないんだけどなぁ。
来てくれるみたいだし、そこは追々誤解を解けばいいか。
懸念だった複式簿記の帳簿付けを教えてくれる教師ゲットだ!
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