305. 対ガレット伯爵家方針

 なんというか、あまりにも貴族の力関係を理解していない行動過ぎて呆れかえる。

 コニエリット様は沈痛な面持ちだが、ヴァードモイ侯爵様は頭が痛いといわんばかりの顔だ。

 私だってなにを考えてそんな行動に出ることができたのか想像もできない。

 本当になにを考えているんだ。


「呆れかえっていてもしょうがない。今後のガレット伯爵家への方針を決める」


 ヴァードモイ侯爵様が気を取り直して宣言するが、まだ疲れたような表情が残っている。

 それほどまでに命知らずな行動なんだろうなぁ。


「まず、第一の目標として奪われたコニエの木を奪還する。この指揮は我が配下の将兵によって行うが迅速性が望まれる。よって、鳥便による強襲を行うものとする」


 鳥便での強襲?

 でも、それってギルドの了承がないとできないんじゃ?

 そこについて聞くと、すでにギルドの了解は得られているとのことだった。

 さすが、手回しがいい。


「今回、ガレット伯爵家モドワールは私とリリィが共同所有するコニエの木のみならず、商業ギルド内にある急速冷凍庫およびコニエリットの資産まで要求している。我々ヴァードモイ侯爵家は商業ギルドからの援軍要請を受けて出撃するものである」


 なるほど、筋書きはすでにできているってわけだね。

 それなら気にせず攻め込めるんだ。


「あの、お待ちください。ガレット伯爵家はマクファーレン公王家の寄子です。そこにヴァードモイ侯爵家が攻め込んだとなるとヴァードモイ侯爵様が不利になるのでは?」


 コニエリット様が不安そうな顔で質問をする。

 暗い顔をしている理由はこれか。

 ガレット伯爵家とヴァードモイ侯爵家の間で板挟みになっていたんだね。


「そこは心配ない。事前にマクファーレン公王家からは『好きにしろ』と了承を得ていた。それなのにヴァードモイ侯爵家の資産を奪い取ったのはガレット伯爵家だ。それに、今回は商業ギルドの応援として派兵するだけ、領地同士の戦争というわけではない」


 うーん、口が回る。

 こうでなくちゃ領主はやっていられないのかな。


「それから今回は並行して私が事情説明のためマクファーレン公王家を訪ねる。私はこのあとすぐに出発するが、派兵準備も並行して行い、準備が整い次第派兵も行う」


「わかりました。それで、私が呼ばれた理由ってなんでしょう?」


「リリィには状況説明とキブリンキ・サルタスの借り入れを申し込むために来てもらった。鳥便での派兵となるが借りることができた鳥便は10羽のみ、武装した兵では30人が限界だ。そこでキブリンキ・サルタスを兵力として借り受けたい」


 キブリンキ・サルタスたちを兵として貸すのか。

 うーん、あの子たち次第だけどやる気を出してくれるかな?


「相談はしてみますが、あの子たちが動くかはわかりません。代わりに私も動くということでどうでしょう?」


 私も動く、そういった瞬間にげんこつが落ちた。

 かなり痛い。


「リリィ、お主は守られる立場だということがまだわかっておらぬのか?」


「あ、プラムさん。それは……」


「お主のことだから自分でも動くだろうとは想像しておったが、本当に動くとは思わなんだぞ」


「いやぁ、それは……」


「まあ、よい。お主もヴァードモイの民であるし今回は直接被害を受けた商人でもある。護衛を付けて出向くのであれば許そう」


「ありがとうございます!」


 というわけで、鳥便のうち2羽は私たちが借りることになった。

 1羽は私とプラムさん、タラトが乗り、もう1羽には乗り気だったらキブリンキ・サルタスたちが乗る。

 ヴァードモイ侯爵様としてはタラトが出ていく時点で過剰戦力になったと見ているが、それも仕方がないだろう。

 私のコニエに手を出す方が悪い。

 出発は明後日の朝、しっかり……準備する物があるかはともかく、しっかり奪われた物を取り返してこよう。

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