439. プラファードの門前

 捕虜の尋問も終わり、約束の時間であるお昼も近づいてきた。

 すると、プラファードの中から兵士が出てきて凍りついた門の周りを固める。

 ふむ、防衛軍かな?

 そうなると、プラファード公爵家の兵士の可能性があるけど、どうしたものか。


「ヴァードモイ侯爵様、あの兵士たち、どうしましょう?」


「いまさら脅威ではないのだが、ここで一戦交えるのも困るな。せっかく、ここまで無傷で来ることができたのだ。街の中へも無傷で入りたい」


「それじゃあ、あの兵士たちも凍りづけにしますか? でも、プラファード公爵家の兵士だったらまずいですよね?」


「あまりよい話にはならないな。……ん? 誰か来たぞ」


 敵の陣地から、重装備の騎士に守られた人が馬に乗ってやってくる。

 その人の身なりからすると貴族なんだけど、誰だろう?

 昨日のクレドリアスという男じゃないんだけどな。


「ヴァードモイ侯爵閣下、敵陣よりプラファード公爵を名乗る男がやってきました」


「プラファード公爵だと? 真か?」


「念のため、キブリンキ・サルタスに読心もしてもらいましたが、嘘は言っていないようです」


 ふむ、プラファード公爵が直接会いに来てくれたのか。

 それなら話が早いかな。


「リリィ。プラファード公爵と直接話をする。お前も付いてこい」


「わかりました。必要なときは捕らえるんですね?」


「最悪な。行くぞ」


 馬に乗ったヴァードモイ侯爵様、タラトに乗った私が軍の前に出てプラファード公爵らしき人と向かい合う。

 少し歳をとっているようだけど、貫禄があり、威風堂々としている。

 ただ、少しだけ疲れているように見えるのは、王弟のせいだろうか。


「久しぶりだな、ヴァードモイ侯爵」


「お久しぶりです、プラファード公爵閣下」


「おいおい、閣下はよしてくれ。いまは敵同士なんだからな」


 ニヤリと笑うその顔は、非常にすごみがある。

 いままで様々な修羅場をくぐり抜けてきた証だろう。


「それで、私を止めにきたのですか?」


「そんなところだ。ついでに、昨日の夜お前たちを襲った兵士たちも返還してもらいたい」


「それが通るとでも?」


「まあ、無理だろうなぁ」


 無理な要求をいっている自覚があったのか、プラファード公爵は肩をすくめる。

 すると、護衛で来ていたはずの騎士ふたりが腰の剣に手を当てた。

 あれ、護衛じゃない?


「こっちの要求は、即時撤退と人質の解放、それから賠償金の支払いだ」


「相変わらず、面の皮が厚いですね、コリニアス王弟は」


「そう言うなよ。私だってこんなことを言うのは本意じゃない」


 ……どうにも、プラファード公爵は本気でこんなことを言っている様子じゃない。

 ちょっと試してみようか。


「タラト」


『うん』


 タラトの冷気が周囲を包み、プラファード公爵とヴァードモイ侯爵様、それから私とタラトだけが氷の繭の中に取り残される状況を作りあげた。

 これなら本音が言いやすいだろう。


「おいおい、これが私たちの戦おうとしているモンスターの実力か? 予備動作もなしにこんなことをされたら、勝ち目なんかないだろう」


「そうですな。では、本心を語っていただきましょうか」


「そうだな。防衛に出てきている兵士は私の兵士だ。なんとか傷つけずに通り抜けることはできないか?」


「ふむ、道を空けてくださればいくらでも。それと、これからコリニアス王弟を討ち取りに行きますが、ご助力願えませんか?」


「そうしたいのはやまやまなんだが、私にもな……」


「ちなみに、ご家族でしたらほかの人質に取られていた貴族家の方々と一緒に助ける準備ができています」


「なに!? 本当か!?」


「はい。既に監禁場所である別邸は私の手の者たちによって制圧されています。ただ、外の警備を大人数で抜ける隙がないため、まだ建物の中に閉じこもっている状態のようですが」


「わかった。そちらも私の方で手を貸そう。なにか仲間だと示せるようなものはないか?」


 仲間だと示せるようなもの……いま作るか。

 私はリュックから適当なシルクを取り出し、適当に百合の刺繍を施して色を染め上げる。

 プラムさん経由であちらに教えれば、これでも十分な証拠となるだろう。


「……おいおい、随分と手慣れているな」


「本職は仕立て師ですので。荒事は専門じゃないんですよ。それでは、これをお持ちください。仲間にはそれで伝わるようにしておきます」


「恩に着る。コリニアス王弟討伐の際は必ず力を貸そう」


「いえ。それでは、氷の繭を解きます。大丈夫ですか?」


「問題ない。次に会うときはコリニアス王弟の前でだな。健闘を祈る」


 プラファード公爵が馬首を巡らせ振り返ったので、氷の繭を解く。

 すると、氷の繭を壊そうとしていたのか、先ほど馬に乗っていた騎士が繭の外にいた。

 プラファード公爵はそのふたりの間を駆け抜け、自陣へと戻って行く。

 騎士ふたりもあとを追おうとしていたけど、どうにもプラファード公爵の護衛ぽくないし、タラトの氷で捕まえておいた。

 こいつらが何者なのかは後でじっくりと聞かせてもらおう。


 そして、プラファード公爵が陣に戻ってしばらくすると、門の前だけが不自然に開いた隊列となった。

 よし、いまならいける!


「タラト、氷の壁!」


『うん!』


 タラトが敵軍の周りに氷の壁を作り出し、私たちには手出しできないようにした。

 これで安全に街へと入れるね。

 よし、あとちょっと!

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