122. 『子蜘蛛の巣』の評判
料理店『子蜘蛛の巣』がオープンしてから二週間が過ぎた。
暦の上でももう間もなく次の月だし、季節も冬という方が合っている。
そんな肌寒い中でも、『子蜘蛛の巣』には行列が出来ていた。
「うん、賑わってるね」
私はアリゼさんと一緒に『子蜘蛛の巣』を視察に来ている。
オープン初日に少し様子を見ただけで、それ以降は来ていなかったからね。
なんの連絡もないってことでむしろ安心してたけど。
「それはもう。毎日盛況なようですよ」
「それならよかった。一応、私が出資したことになっているから売上が出てくれないと困るもの」
「売上は月末に締めてみないとどれくらいの利益になるのかわからないでしょう。ただ、この人の入り方では相当な利益が出ていると思われます」
だよね。
毎日、全メニュー売り切れになるまで客足が途絶えていないって聞くもの。
数日前に孤児院に行ったとき働いている子に話を聞いたところ、食事に来るのはなんと6割くらい女性なんだそうだ。
最初は野菜多めなメニューが多くて男性が入っていないのかと感じたけど、そうではないらしい。
女性が気軽に入れる料理店って少ないらしいんだよね。
ブレッドさん夫妻が経営していた頃の料理店も男性向けのお店だったらしいし、やっぱりメインターゲットが男性な食事処の方が多い。
そんな中、女性でも気軽に入れるように店内を明るく、開放的にした『子蜘蛛の巣』が出来たことで女性も足を運びやすくなった。
それに、店員がまだ子供ということもあり、お酒の類いは一切置いていない。
酔っ払いに絡まれる恐れもないのだ。
店の前には普段は衛兵さんたちと一緒に街を警備して歩いているロックウルフも居座っているし、安全な場所として認識されているのだろう。
それで、人気メニューはというとなんと肉より野菜の煮込みの方が早めに売り切れる傾向があるらしい。
さすがに頼んでいる客の男女比まで調べているわけじゃないから正確なことはわからないけど、売り切れが早いのは野菜の煮込み系料理だそうだ。
特にハノンさんに特注して作ってもらった鉄鍋を使う毎日日替わりの鍋料理が受けているみたい。
初日はほとんどおでんを作ったようなものなんだけど、それ以外の日でも季節の野菜を肉と一緒に出汁で煮込んだものを出している。
出汁のうまみと肉の脂が野菜に染みこんでおいしいのだとか。
孤児院ではどんな野菜をどういう調理方法で食べれば美味しいかを調べるため、毎日いろいろな野菜料理が出されているらしい。
子供たちもうまみがぎっしりと詰まった野菜は好き嫌いせずに食べてくれるそうだ。
ヴァードモイは冬になっても雪に閉ざされる地方じゃないから野菜が手に入るけど、冬に野菜が手に入らなくなる地方だったら大変だったんじゃないかな。
まあ、子供たちも野菜をたくさん食べてくれているようだし、元気なことはいいことだ。
「それで、アリゼさん。海魚の調達ってなんとかなりませんか?」
「うーん、リリィ様のことですから美味しい食べ方を知っていると思うのですが……生のまま鮮度を落とさずヴァードモイまで運んで来るのは難しいですね。直近の街でも馬車だと一週間ほどかかりますから」
「つまり、魔道車ならもっと早いんですね?」
「そうなります。コストは上がりますが最短二日まで縮められます。大量の魚を定期的に、となればコストは更に圧縮できるでしょう」
「じゃあ、魚の買い付けもお願いします。冬に食べる魚の鍋は美味しいですから」
「わかりました。私もあの店の常連ですし、頑張っていい魚を仕入れるとしましょう」
……アリゼさんも『子蜘蛛の巣』に通ってたんだ。
商業ギルドからだと少し離れているけど大丈夫なんだろうか?
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