480. 大社島の草原地帯にて

 大港島から大社島へ渡る海は簡単に渡れた。

 大きな船が通れるほど深くはないらしいけど、難しい海域でもないらしい。

 ともかく、私たちは大社島に渡り、そこで一泊、翌日八天座の街を目指すことになった。


 大社島の中の移動は、馬車ではなく牛に似たモンスターに引かれた車で移動するようだ。

 見た目は角もあるし、完全に雄牛なんだけど、尻尾が2本ある。

 体毛はなんだか乳牛っぽい白と黒のまだら模様だ。

 どういう生態系をしているんだろう?


「コウロさん。この牛型のモンスターってどんな生態をしているんですか?」


「そのモンスターは『パルフェ』と申しまして非常に温厚な草食性のモンスターです。大社島では、古くから住人たちと寄り添い暮らしてきたモンスターですね」


「なるほど。大港でも漁にモンスターを使うって言ってましたが、八天座の島ってモンスターテイマーが多いんですか?」


「形式上は多いですね。実際には、モンスターの方から庇護を求めて人間に近寄って来ているんです。大港の漁で働くモンスターたちは、漁で捕れた魚の一部をもらうことで自分たちだけで漁をするより効率的に食事をもらえ、そのパルフェたちは人と一緒に暮らすことで外敵から身を守ってもらえます。パルフェは力が強いので、移動用の足に使ったり、農業の補助をしてもらったりと力仕事に大活躍ですよ」


 なるほど、あまり考えたことがなかったけど、人と共生関係にあるモンスターもいるんだ。

 でも、そうなるとキングなどの統率個体が生まれないか心配になってくるんだけど、そちらも本能的に人と寄り添うらしい。

 人と一緒に居た方が自分たちだけで暮らすよりも安全で効率よく餌が手に入ると知っているからみたい。

 統率個体は海だと大きな漁でモンスターたちのまとめ役に、パルフェの場合は八座のパルフェ車の牽引役となり統率する役目を担うそうだ。

 やっぱり統率個体は知能が高いらしい。


「ああ、リリィさん。今日、八天座の街に行く途中の平原で野生のパルフェを見ることができますので、よかったら見ていってください」


「はい。ありがとうございます」


 野生のパルフェか、どんなのだろう?


 移動が始まりしばらくすると、コウロさんが言っていた平原らしき場所にやってきた。

 そこには確かに野生のものと思われるパルフェたちが遠巻きにこちらを見ている。

 警戒しているというより、珍しいものを見ているといった感じだね。


「野生のパルフェからすれば、大きな蜘蛛の行列など初めて見るものでしょう。それでこちらを覗き込んでいるのですよ」


「あ、キブリンキ・サルタスたちですか」


「はい。……おや、パルフェたちが近づいてきましたね?」


 コウロさんの言うとおり、遠巻きに見ているだけだったパルフェたちが、一匹、また一匹と近づいてきた。

 近づいてきて初めて気が付いたけど、野生のパルフェは飼い慣らされているものと比べて一回りほど体のサイズが大きい。

 日頃の餌の差なのかな?


 ……さて、どうしよう?

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