359. お野菜蜘蛛の群棲地到着

 目の前に見えていた岩山、と言うか岩の壁を乗り越え、その奥にある山をさらに越えたところがキブリンキ・サルタスたちの住処らしい。

 このまま降りていってはいらぬ争いをうむかもしれないということで、キブリンキ・サルタスたちの1匹が先に降下して事情の説明に行った。

 大丈夫かなぁ?


『大丈夫だろう。我々は基本的に警戒心が強いが仲間には寛容だ。話くらいは聞いてもらえるだろう』


 本当に大丈夫かなぁ?


 心配に思っていたところ、先に降下していたキブリンキ・サルタスが戻ってきた。

 あちらも対話する準備ができたので一緒に降りてほしいとのことだ。

 よし、降りていってみるか。


 キブリンキ・サルタスたちに先導されて降りていった先には、キブリンキ・サルタスたちの群れが待ち構えていた。

 その数1000匹なんてもんじゃないと思う。

 蜘蛛がだめな人はこれだけで卒倒しそうな光景である。


『ようこそ、客人。我がキブリンキ・サルタスのまとめ役をしている者だ』


「はじめまして。私はリリィと言います。こっちは相棒のタラト」


『よろしく!』


 タラトが一緒にあいさつするのは、私たちと一緒に来たキブリンキ・サルタスの提案だ。

 やっぱりキブリンキ・サルタスにとってもタラチュナトスは恐怖の対象らしい。

 ここでプレッシャーをかけて交渉を優位に進めようということだけど、そう簡単にうまく行くかな?


『ほほう。タラチュナトスですか。いや、珍しい。それで、今回の訪問のご用件はなんでしょう? わざわざ人の足ではこれないような秘境までおこしいただいたのですから、なにか理由がおありでしょう?』


 うん、やっぱりだめだった。

 まあ、うまく行けば程度の話だし問題はないかな。

 サクッと理由を説明するか。


「私たちは新しく巣分けを行うキブリンキ・サルタスたちを迎えに来ました。私の元には約70匹のキブリンキ・サルタスたちがいますが、いろいろなところに散っているので数が足りません。その補充と私たちのお仕事の手伝いをしていただきたいんです」


『仕事ですか。具体的にはどのような?』


「領主様からお願いされているのは街の警備です。これは一日街を警備してもらう代わりに、お野菜を報酬としていただけます」


 お野菜が報酬。

 この言葉であちらのキブリンキ・サルタスたちがざわつきはじめた。

 やっぱり、ここのキブリンキ・サルタスたちも人の作る野菜には興味があるらしい。


『なるほど。ほかには?』


「私が領主様からいただいた山に畑を切り拓く手伝いも必要です。別の作業でその山を開発する子たちが減ってしまい、畑の管理が精一杯になってしまったので」


『畑の管理!?』


 お、すごい食らいついてきた。

 これはいけるか?


「はい。私が住んでいる地方の領主様から、未開発だった山をまるごとひとついただきました。そこを私が契約しているキブリンキ・サルタスたちが開発し畑を作っていたんです。もちろん、お野菜の種は私が供給しています」


『読心術を使っても嘘がない。本当なのか、同胞よ?』


『事実だ。我は街の守りについているのであちらについてはあまり詳しくないのだが、我らが住んでいた山をひとつ譲り受け、その開発権を得てもらえた。また、近隣の村との間で防衛する代わりに野菜をもらうための契約をしてもらえることとなった。いま、そちらの数は減っているが、それは新しい地域で新しい野菜や果物を探すための旅に出ているからだ。数が揃えば、また新しい旅の予定が組まれるかもしれない』


『むむむ……人間の野菜を堂々と作れる畑、人間を守る代わりにもらえる野菜、新たな作物を探す旅。どれも魅力的だ』


『だろう? 今回は手始めとして人の街で売っている野菜とそれを使ったスープを実食してもらう。スープは一口ずつくらいしか作れないから味わって飲むように』


 ああ、これだけの蜘蛛相手のスープ作りか。

 時間がかかるだろうなぁ。

 仕方がない、がんばりますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る