470. 八天座の島へ行く準備

 八天座の島に向かうキブリンキ・サルタスの選抜はすぐに終わる。

 やっぱり、試験耕作地で働いている子たちから希望者が多く出てくれた。

 彼らも新しい土地で農業ができるとやる気満々である。


『契約主、本当にいい話を持ってきてくれた。この地域とは植生が異なるであろう島国で働けるなど、なんと素晴らしいことか!』


「素晴らしいことはいいんだけど、ここの業務はきちんと引き継いでくれたんだよね?」


『無論だ。必要な知識はすべて書類に残し、後輩たちにも伝えてある。問題が起きないように万全の準備は整えた』


「よかった。それで、国内のほかの地域に行く子たちなんだけど……」


『うーむ。そちらはあまり集まっていないな。コニエのところのように、新しい作物があるとわかっているならば行くが、特に変わった作物も育てておらず、新しい作物を探しに行くこともできぬとなるとな』


 やっぱり、こちらは待遇に不満ありか。

 そこについての改善を見込めないと数が集まりそうにないね。

 ちょっとヴァードモイ侯爵様に相談してみよう。


「ふむ。キブリンキ・サルタスはそのようなことを」


「はい。やっぱり、この街でもできることを別の街にやりにいく、それもこの街よりも不便な条件で行くというのは乗り気になれないようです」


「それも当然の話だな。では、どうすればやる気が出ると考える?」


「一番手っ取り早いのは、野山で新しい作物を探させることでしょうか。マクファーレン国内でもヴァードモイ侯爵様の影響圏とは違った土地を探すことになりますし、新しい作物が見つかるかもしれません」


「そうなると、問題はモンスターが勝手に出歩いていて事情を知らない冒険者に襲われたり、街道を歩いている商人などが怯えて逃げ出したりすることか」


「最初は道案内兼説明役として兵士を同行してもらうしかないと思います。それで、それでもだめだった場合は、キブリンキ・サルタスたちが好きに帰ってきてもいいという条件で貸し出します」


「読心もできる相手に下心なく近づくのは容易ではないと思うが、そこが落とし所だろう。リリィの言うとおり、キブリンキ・サルタスたちが理由もなく不自由を強いられた場合、自由に戻ってきてもよいものとする、と公王陛下と最終調整をしておこう」


「わかりました。私もその条件でもう一度行ってくれる子がいないか探してきます」


「頼んだぞ」


 不自由を迫られたら帰ってきてもいい。

 この条件を付けることで、ようやくマクファーレン国内の公王陛下派閥に連れて行く分の子たちが集まった。

 誰だって不自由はしたくないものね。

 私もヴァードモイ侯爵様も人間を襲わない限り自由にさせてるし、いまは互いの立場を尊重し合っている関係だ。

 その関係性が崩れるのはよくない。

 そこのところもしっかり理解してもらわないと。

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