437. プラファード到着

 そのあと、私たちは小さな山をひとつ越え、ついに北都プラファードまで到着した。

 しかし、プラファードも当然と言えば当然だけど、厳戒態勢で私たちを出迎えてくれている。

 さて、どうしたものか。


「止まれ! 貴様たち、ヴァードモイ侯爵家の者か!?」


「そうだ! 我々はヴァードモイ侯爵家の軍勢だ! 王弟コリニアスから我らの街に攻め込んだことに対する賠償を受け取りに来た!」


「そこで待て! 詳しく話を聞いてくる!」


 街壁の上から私たちのことを監視していた兵士がひとりいなくなった。

 しばらくして、プラファードの門が開き、馬に乗った騎士に護衛された身なりがよく恰幅が……いや、だらしなく太っている男が出てくる。

 あいつが交渉役かな?


「ヴァードモイ侯爵、これはどういうことですかな?」


「なんだ貴様は? お前のような怪しい男を通すと思うのか!」


「貴様こそ一雑兵のくせに失礼であるぞ。私はクレドリアス侯爵。コリニアス様の腹心である」


 クレドリアス……知らない名前だなぁ?

 ヴァードモイ侯爵様は知っているのかな?


「ヴァードモイ侯爵様、あいつのことは知ってますか?」


「一応な。だが、あの男は子爵だったはずだ。なにがどう転んで侯爵になったのか、少々興味が湧いてきた。すまないが、私の護衛を頼む」


「わかりました」


 私たちの馬車が前に出ていき、クレドリアス……侯爵か子爵か知らないけど、その人のところまで行く。

 そうして、ようやくあちらも私たちに気が付いたようだ。


「ヴァードモイ侯爵! あの失礼な男はなんだ!」


「お前の方こそ失礼なのではないか、クレドリアス『子爵』?」


「いまの私は『子爵』などではない! 『侯爵』だ! コリニアス様から直々に爵位を授かったのだぞ!」


「そうか。まあ、いい。それで、腹心を名乗るお前が出てきたということは、コリニアスは私に賠償をする意思があるのだな?」


「コリニアス『殿下』と呼べ! そして、賠償などするはずがない! 賠償する責任があるのはヴァードモイ侯爵の方ではないか!」


「攻め込んできた方が賠償を要求するとは盗人猛々しいな。仕方があるまい。まずは、捕虜の引き渡しといこう。捕虜の荷車をここに!」


 ヴァードモイ侯爵様の号令で氷の檻の荷車と氷のかたまりの荷車が前に出てくる。

 どちらも季節外れの氷でできているため、クレドリアスとかいうやつも少々焦っているようだ。

 お楽しみはこれからなのに。


「さて、残った捕虜をすべて返却しよう。まずは、檻に入っている捕虜から」


 ヴァードモイ侯爵様の合図で私は氷の檻を霧散させる。

 氷の檻の中にいた捕虜たちも、最初はなにが起きたかわからなかったみたいだけど、少し経ってから自分たちが解放されたことを知り、安堵の表情を浮かべていた。

 さて、ここからが本題だ。


「次、氷のかたまり内部にいる捕虜の解放だ」


「待て、ヴァードモイ侯爵! ここに来るまでの間も、氷の中にいる人間を解放してきたそうだが、どのような魔法を使った! 貴様、蘇生魔法を編み出したのではあるまいな!?」


「そんな高等魔法は作り出せていない。凍りついた時間の中から捕虜を解放してやるだけだそうだ」


「な、なに?」


「理解ができないならそれでよい。頼む」


 合図があったので、氷のかたまりを溶かして内部の捕虜たちを解放する。

 氷の中から解放された捕虜たちは、いままでの捕虜たちと同様に、ここがヴァードモイではないことに混乱し、自分たちが最後に見た光景を思い出して立ちすくんでいた。


「ふ、ふん。どういう手品を使ったかは知らんが、捕虜を解放したことが裏目に出たな! おい、お前たち、ヴァードモイ侯爵を捕らえよ!」


 クレドリアスが捕虜に向かって叫ぶが、捕虜たちは動かない。

 むしろ、顔を青ざめさせて後ろに下がって行っている。

 普通の反応だね。


「貴様ら! なにをしている!」


 クレドリアスはさらに叫ぶけど、捕虜たちはそれを聞いてさらに後ずさる。

 完全に恐怖が勝っているようだ。


「捕虜たちよ。私たちはこれ以上お前たちに干渉しない。どこへなりとも好きに行くといい」


 ヴァードモイ侯爵様が告げると、捕虜たちは一目散に逃げ出していった。

 そのすべてがプラファードには逃げこまないあたり、状況判断はできているらしい。


「な、なんだ……。なにがどうなっている!?」


「戦力差を読み違えたコリニアスの負けだ。クレドリアス、戻ってコリニアスに伝えよ。明日の昼までに我らの入街を認めなければ、街を凍りづけにするとな」


「そ、そんなこと、できるはずが……」


「できるさ」


 うん、軽くやってやれってことだよね。

 私はタラトに命じてちょっと正面の門を凍りづけにしてもらった。

 これで門は閉まらなくなったはずだ。


「こ、これが、ヴァードモイ侯爵の力……」


「正確には私の力というわけではないのだがな。ともかく、コリニアスに伝えよ」


 クレドリアスはすごすごと凍りついた門を抜け街の中へと帰っていった。

 すぐに結果が出るとは思えないし、今日の夜はここで野営かな。

 それから、今回の騒ぎで別働隊も動き出すと思うんだけど、そっちもうまくいってほしいね。

 うーん、いろいろなことが同時に動いてる。

 私が指揮する立場だったらこんがらがりそう!

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