エピローグ 学校設立に向けて

456. ヴァードモイで今後のことを

 私がプラファードに戻って10日経った後、コリニアスとその一派が処刑された。

 コリニアス以外は斬首だったが、コリニアスは火あぶりである。

 なんというか、苦しそうだったな。

 多くの人を苦しめた人間の末路としては妥当なのかどうかはよくわからないけど、とりあえず旧体制の処理は終わったわけだ。


 処刑を見届けたら私たちはヴァードモイに帰り、私はもう始まってしまった冬の服作りを、ヴァードモイ侯爵様はプラファード公爵様の娘であるハニエラさんを連れてマクファーレン公王陛下にことの顛末を報告に行った。

 ハニエラさんもプラファード公爵家の娘として一緒にあいさつに行くことになったのだ。

 私は行かなくてもいいと言われたし、冬服の準備もあったのでヴァードモイでお留守番である。

 まあ、私は正式なヴァードモイ侯爵様の部下じゃないし、行く必要はないでしょう。


 それで、しばらく経ってからヴァードモイ侯爵様たちが帰ってきたんだけど、すぐに私が呼び出された。

 うん、なにかあったな。


「リリィ。変なことを聞くが、資金に余裕はあるか?」


「ありますけど、それがなにか?」


「お前が孤児たちに教えようとしている複式簿記だが、公王陛下より待ったがかかった。あれだけ高等な教育を孤児院の子供たちだけに教えるのは、やはり問題があるそうだ」


 うーん、問題があるようだと言われてもねぇ。

 変なことを教えるわけじゃないんだし、構わないと思うんだけど。


「この件について公王陛下と話し合ったが、公王家として新しい学校を設けそこで教えることとなった。そこにリリィがあの計算方法の発案者として参加する形になる」


「えっと、複式簿記は私が考えたわけではないんですけど」


「商業ギルドのギルドマスターにも確認を取ってもらい、聞いたことのない計算方法だとなったのだ。誰かが発案したことにならなければ教えることもできぬ」


「それはそうかもしれませんが……」


「『発明者』でもなく、『発見者』でもなく、『発案者』なところで譲れ。ともかく、誰かが発案し、それを公王家が承認した形になる。教えるのはハニエラだが、プラファード公爵家が発案というのはまずい。お前が発案者になれ」


 今回はかなり強情だなぁ。

 結構しんどいやりとりをしてきたんだろう。

 仕方がない、ここは譲るか。

 私の目的は、誰が発案者かということじゃなくて子供たちに教育を施すことだし。


「わかりました。それで、最初の資金うんぬんというのは?」


「そこだ。複式簿記の発案者ということで、お前には大金が支払われることになる。しかし、公王陛下にも大きな都市はともかく、小規模な都市までは学校を開設できない。そういった場所の学校を建設する資金を複式簿記の対価から支払ってほしい」


 ふむ、詳しく聞くとこうだ。


 公王陛下の肝いりで新しく平民向けの学校を開設することになった。

 だが、それでも資金的には比較的大きな街にしか建設できない。

 それでは私の目的を達成するにはほど遠いわけである。


 それに対し、私はヴァードモイ侯爵様の寄子の貴族領地に私の出資ということで学校を建てる。

 資金は複式簿記の対価から支払う。

 その許可をヴァードモイ侯爵様は公王陛下からもぎ取ってきたのだ。


 普通は一般市民どころか有力貴族さえ、自分で学校を建てるなんてことはできるはずがない。

 そこを『複式簿記の使用権と引き換え』かつ『ヴァードモイ侯爵様の寄子の範囲内だけ』に認めるということで認めさせてきたようだ。

 本当にヴァードモイ侯爵様はできる。


「それで、私はどれくらいお金を支払えばいいんですか?」


「いや。『学校を運営する』と周りから見られてもおかしくない程度に稼いでくれていればいい。実際の建築費用は私が支払う」


「いいんですか? 甘えちゃって」


「巡り巡って私の影響圏が活発になるのだ。ケチりはしない」


「本当に太っ腹ですね。でも、学校となるといろいろ面倒なのでは?」


「教師を集めるなどは私がコネで集められるから心配するな。それから、教育の一環として『八座神』の教会を併設するが構わないか?」


「『ハチザシン』?」


 どうしよう、知らない宗教だ。

 でも、道徳教育は必要だしなぁ。

 どうしよう。


「リリィは知らないか。大々的な神殿を構えているわけでもなく、大がかりな宗教行事をやっているわけでもない。無理もないな」


「それで、その宗教ってどんな内容ですか?」


「細かくはヴァードモイの街にも教会があるのでそこで説法を受けてもらいたいが、大雑把に言うと『他人を欺くな。己を見つめよ。天に恥じることなく生きよ』というのが教義で、天には八柱の大神がおり、その配下に様々な神がいるという宗教だな」


「なんだか随分とゆるいですね」


「各地の信仰や神話があわさった結果、生まれた宗教だと聞いた。かつてはモンスターを相手取るだけで精一杯、人間族同士が争い合う余裕などなかった。信じる神が違っても我らは仲間だ、という意識だったそうだな」


 なんか、本当にゆるいな。

 でも、過激な思想じゃないみたいだし問題はないか。

 学校設立は冬が明けてから本格的に動き出すみたいだし、それまでは裏での取り決めだね。

 なんだか話がでっかくなってきたなぁ。

 自分が言い出したことだから投げ出すつもりはないけどね。

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