423. 着物談義は続くよ
「フリソデのほかに、そのドレスの種類はありませんの?」
「ありますよ。例えば黒留袖。振袖が未婚女性の最上位なのに対し、黒留袖は既婚女性の最上位だといわれています。振袖は未婚女性が、留袖は既婚女性が着ける習わしですね」
「クロトメソデ? 一体どんな服?」
「その名の通り、黒一色に染め上げた着物です。ただ、光沢のある刺繍で模様……絵が入っていることも特徴ですかね。その絵も一色ではなく何色も使ったカラフルな絵です」
「それはすごいわね。そのクロトメソデというドレスを作るとしたら、どれくらいかかるのかしら?」
うーん、値段の計算か……。
黒留袖の光沢や複雑な刺繍と染め物による絵柄を表現するとなると……。
「そうですね、3億から4億ルビスくらいになります。デザイン料も発生しますし。技術料も考えるとそれくらいの値段が妥当なような気がします」
さすがにその値段を聞いて一同絶句してしまう。
そうだよね、高いよね。
「うーむ。ドレス1着にその値段は高いが……ほかにデザインできる仕立て師のいない、最高級布をふんだんに使ったオリジナル品となると、相場的には間違っていないのか?」
「そうですねロベラウド公爵閣下。この値付けならばリリィの金庫番を務める、商業ギルドの職員も口うるさくは言わないでしょう」
あれ、これは普通に頼まれちゃう流れ?
どうしよう、まだなにも考えていない。
「よし、リリィ。申し訳ないが、妻ふたりと娘ふたり、4人分のクロトメソデとフリソデを頼む。予算は1着5億ルビスだ」
うわぁ、値段的にも妥当なところを示してきたよ。
これじゃあ、断ることができない。
引き受けるしかないじゃない。
チラリとヴァードモイ侯爵様を見たけど、頷き返してきたし、これは受けろってことだよね。
うーん、想像していなかった仕事が入ってしまった。
「かしこまりました。ただ、私もこれから北の地へ向かう身です。作業はそちらから帰ったあとにはじめます。それと、着物の作製にはドレスとは比較にならない時間をいただくことになります。それでも構いませんか?」
「キモノにかかる時間か。どれくらいを想定している?」
「1着あたり3カ月はほしいところです。実際には並行して作業を行うので、納品自体が来年の夏の終わり頃になると思ってください」
「ふむ。待てるか、お前たち?」
ロベラウド公爵様の問いかけに、奥様ふたりもお嬢様ふたりも頷いてしまった。
ただ、お嬢様の振袖を優先してほしいという要望は出てくる。
旧国の混乱でふたりとも嫁ぎ先が決まっていない状況だが、振袖の性質上、着ることができるのは結婚式までが一般的である。
それも考えると、お嬢様たちの方が急ぎらしい。
よし、そちらは帰ってすぐにはじめないとね。
予想しなかったところで仕事を受けてしまった。
いや、予想できなかったのが間違いかな?
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