422. 着物の産業化
「それほどの価値があるのでしたら、それを作ること自体に意味が生まれるのでは? ヴァードモイ侯爵様、フリソデを産業として進めませんの?」
「振袖の産業化か。リリィ、お前はどう思う?」
ここで私に振るのか。
いや、私が答えなくちゃいけないんだろうな。
作り方も私しか知らないだろうし、持ち込んだのは私だ。
ヴァードモイ侯爵様にとって、私はあまり機嫌を損ねたくない相手でもあるみたいだし。
どうしようかな。
「悪くはないと思いますが、やはり布の生産が問題でしょうか。鮮やかなドレス用の布となればシルクが望まれるのでしょうし、その生産量も限られています。そちらを解決するところからですね」
「なるほど。ヴァードモイでも最も安いのは、リリィが作るスパイダーシルクだ。だが、これは交易品としてほとんどが外に出ていく。ヴァードモイ内部で消費するには、生産量を増やさねばならないか」
「スパイダーシルクを増やすことはそう難しくありません。そこを解決したとしても、次はシルクを染め、刺繍を施し、そこに色をつける職人を育てる必要があります。ここが一番のネックではないでしょうか」
この世界の染め物ってやっぱり単調というか、濃淡の差が激しいんだ。
淡い色の変化はよくわからないみたいなので仕方がないんだろうけど、そういった表現の差も大きな違いとして出てくる。
それに、着物の中でも振袖は特になんだけど、袖まで使った絵画のような柄が特徴である。
袖のところをずれないように刺繍や染め物を施すには技術が必要になるし、それこそ数年で育つものではないだろう。
長期的な視点で育成するのは問題ないけど、すぐに育成できるとはとてもじゃないけど思えないな。
「なるほど、職人の技術か。リリィを見ていると、見知らぬ技術でも簡単にでてくるので最近は錯覚していたが、本来は長年の研鑽の上でなり立つものだな。そこも見据えて長い年月をかけ育成するか」
「はい。それに、染め物とかって気を付けないと水質汚染の原因にもなったりしますよね? そこも気にした方がいいかと」
「それもあるか。ふむ、そこはヴァードモイに帰ったあと、コウに考えさせよう。次期ヴァードモイ家当主としての最初の課題だ」
うわぁ、いきなりハードルが高いね。
でも、私も手伝うことになるんだから、相談相手は確実にいるということになるのかな?
私としても、着物作りを独占するつもりはないし、技術を世に広めるのは構わない。
よし、コウ様に頑張ってもらおう。
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