421. 振袖の話
「もう、お父様ったら政治の話ばかり。ほかの話題はないんですか?」
ロベラウド公爵様とヴァードモイ侯爵様が今後のことを話していると、ロベラウド公爵様のお嬢様から待ったがかかった。
確かに、食事のあとの席まで政治の話題ばかりというのは飽きるだろうな。
そういうのは別室でやっても構わないと思う。
「それもそうだな。ステイシア、お前にはなにか聞きたいことがあるのか?」
ステイシアというのは、ロベラウド公爵様の下のお嬢様。
歳は今年で15歳になったらしい。
まだ嫁いでいないのは、嫁ぎ先の情勢不安があり、迎え入れる準備ができていないためだそうだ。
「はい。リリィ様、そのフリソデというドレスはどれくらいのお値段になるんでしょう?」
「振袖の値段ですか?」
「そうです。それだけの見事なドレスですもの、高いのは想像できますがどれくらいなのかと」
この振袖の値段か……なにも考えずに作ったな。
でも、万能染色剤を100回以上は使っているから、それだけで一千万ルビスは超える。
生地だってすべてフロストスパイダーシルク製で、振袖だけでも一巻きとか二巻とかそんな甘い数じゃなく、八巻くらい使った。
それに、肌襦袢、長襦袢なども帯などもフロストスパイダーシルク製だ。
その上ですべての内側にはオーガスパイダーシルクで補強がしてあり、エンチャントも施してある。
それらを考えると……値段は……。
「……1億ルビスくらいでしょうか」
「い、1億?」
「はい。私は最高級シルクの生産者でもあるため、贅沢にそれらも使わせていただきました。その上ですべてにエンチャントを施し、刺繍をしたあと万能染色剤を使って染め上げています。違いがあまりわからないでしょうが、万能染色剤を使う回数も1回ではなく、何回も使って細かい色の濃淡を表現しました。合計で百数十回ほど万能染色剤を使っていますし、それくらいが妥当かと」
うーん、どう考えてもそれくらいが妥当なんだよなぁ。
しかも、その金額にはデザイン料が含まれていない。
使った素材を市場価格に置き換え、かかった日数を費用として算出しただけなのだ。
正直、量産できるものではない。
それに、和服って誰にでも似合う服装じゃないし。
「お、驚きました。ドレス1着でそれほどの値段がするとは」
「私もなにも考えず、利便性と保存性、快適さを追求した結果がこれです。持てる技術をすべて注いだ結果ともいえます。販売するとしたら、もう少し簡易な作りになりますが、それでも刺繍の華やかさを出すため、複雑な刺繍を施し、万能染色剤を複数回使う必要が出てくるので、そこまで安くはならないかもしれませんね」
これ、一介の商人が着てていい服なのかなぁ?
どう考えてもローデンライト姫より豪華な服なんだけど。
ただ、ローデンライト様って出るところは出て引っ込むところは引っ込んでるスタイルだから、着物が似合うとは限らないんだよね。
難しいところだな。
帰ってきてから、本人と相談しよう。
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