3. こんにちは、新しい相棒

 3週間お世話になった小屋を出て私はひとつだけあった道の奥へと足を進めた。

 ほかは完全に森の中へと続いているから通れないんだよね。

 こっちは獣道みたいに草木が分けられているから通りやすい。

 でも、森の中なのは変わらないから慎重にいかないと。


 森の中を1時間ほど進んだけど、いまだに私は森の中。

 女神様の地図によれば、4時間くらい歩かないと街道まで出ないそうだからまだ半分もいってない。

 あ、女神様がくれた便利アイテムには方位磁針も付いていた。

 この世界では方位磁針も普通に売られているそうなので、かなり精度のいい方位磁針がおまけとして付けられていたんだ。

 知識チートは使えなかったか……。


 この世界ってありきたりな剣と魔法の世界らしいんだけど、一部近代的な部分もあるらしい。

 例えば、蒸気機関が使われているとか、自動車があるとか。

 どっちも正確には魔道具で動く乗り物のようなので、地球みたいに化石燃料を燃やして動かす仕組みではないっぽい。

 でも、これらの移動手段があることでお金持ちの人や国をまたいでの移動はスムーズなのらしい。

 でも、短距離の移動では馬車もまだまだ健在。

 馬車の馬も普通の馬からテイマーが操る魔獣まで様々だとか。

 ちょっと会ってみたいかも。


 そういえば、私ってテイム出来るのかな?

 魔法紡織と魔法裁縫で服作りは出来るんだけど、テイム能力があるかはわかっていない。

 個人的にはまたテイマーとしてやっていきたいんだけど、難しいんだろうか?

 この世界で死んじゃったらそれまでだし、あまり危険なところには行くなという思し召しかな?


 さて、そんなことを考えながら歩くこと3時間。

 もうすぐ街道と合流する……はず。

 私の足で3時間なのか、もっと足が速い人で3時間なのかがわからないから自信がない。

 自分の移動距離がわかる周辺地図みたいなものがあると便利なのに。

 ついでに敵性存在とか仲間とかがわかるミニマップ。

 あれもゲームでは定番だったけど便利なんだよね。

 この世界にはそんなスキルないのかな?


「……ん?」


 歩いていたら、なんとなくだけど左手側の森の奥から視線を感じる。

 視線といっても嫌な感じのものではなく、興味を持ってこちらを見ているというか、自分に気付いてほしくてみているというか。

 なんだろう、こんな森の中で。


「……誰か、いるの?」


 私は盾と槍を構え、臨戦態勢で声をかける。

 こんなところで普通の人に出くわすとは考えにくいからね。


 数瞬の間があり、森の奥から出てきたのは一匹の大蜘蛛。

 私が乗れるくらいの大きさがありちょっと迫力がある。

 でも、敵意を向けられている感じはしないから安心そう。

 警戒は続けるけど。


「あなたが私を見ていたの」


「WASYAWASYA」


 言葉は通じないけどそうっぽい。

 でも、どうして私を待っていたんだろう?


「ええと、私に何か用事?」


 そう告げると、大蜘蛛は私の元までやってきて頭を下げる。

 これって魔物がテイムされるときに恭順の意を示すときの動作だ。

 この子は私にテイムされたがっているのかな?


「ええと、テイムすればいいの?」


「SYU」


「じゃあ、テイムするね。『私と共に来てください』」


 テイムの言葉はなんでもいい。

 とにかく、相手と一緒に行動するような言葉を投げかければいいんだ。


 私が大蜘蛛の頭の上に手を置き、テイムの宣言をした瞬間、私の手と大蜘蛛の頭が光に包まれた。

 それも数秒間のうちに収まり、大蜘蛛の頭には百合の花をかたどった意匠が付けられている。

 よかった、テイム成功だ。

 でも、なんで『リリィ』の紋章なんだろう?


『ご主人様、名前、付けて!』


「あ、そうだね」


 テイムは魔物に名付けを終えて終了となる。

 名前、なんにしようかな。

 昔使ってた名前をそのまま使おう。

 見た目もそっくりだし。


「あなたの名前は『タラト』、それでどうかな?」


『僕の名前は『タラト』! ご主人様、ありがとう』


「どういたしまして」


 私の旅の仲間として『タラト』が加わった。

 この世界での種族名はわからないけど、楽しくやっていけそう。

 よろしくね、タラト。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る