私、蜘蛛なモンスターをテイムしたので、スパイダーシルクで裁縫を頑張ります!
あきさけ
第一部 新しい人生の始まり
第一章 新しい人生
1. おはよう、新しい私
「ありがとうございました!」
「おう、いままでありがとな、リリィちゃん!」
「
……私のことをごひいきにしてくれていた顧客の安軒さんも来てくれた。
そろそろ店じまいかな。
「ありがとう、リリィ」
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
私はVR空間から現実世界へと覚醒する。
今日はVRMMORPG『ミズガルズライフ』のサービス最終日だ。
サービス終了まであと2時間ほど残っているけど、お得意様へのあいさつは終わったし、ログアウトして私のゲームはおしまい。
長年愛用してきたアバターの『リリィ』ともお別れだ。
私は10歳の頃に発見された病気で入院生活を余儀なくされた。
勉強自体はオンライン授業で受けられたけど、学校生活は出来ない。
もちろん友達だって少なかった。
そんな私に両親がプレゼントしてくれたのが『ミズガルズライフ』である。
このゲームはまあ、よくある一般的なVRMMORPGだったけど、PvP要素を極端に排除し、課金で手に入るアイテムなどもオシャレ用の物ばかりと良心的な設計だ。
私はこの世界におけるアバターとして『リリィ』を作り出し世界中を旅して回った。
高レベル帯でしか行けないダンジョンなど以外の観光名所はほぼ行ったはずである。
そんな観光名所巡りは3年もあれば終わってしまい、そのあとなにをしていたかと言えば『職人プレイ』だ。
私はメイン職業として『テイマー』を選んでいたけど、その中で蜘蛛系の魔物がシルクの原料になる糸を作ってくれるのである。
それを活かすために裁縫系スキルを鍛え、一流の服飾師として残りの期間を過ごした。
先ほどの安軒さんを始めに多くの愛用者を抱えるそれなりのプレイヤーだったと自負している。
さすがにトッププレイヤーが着るような一流の防御用装備は作れないけど、見た目が綺麗なオシャレ装備や同じ職人が使うのに便利な付与などは一式持っているのでそれを武器にしていたのだ。
売り上げは……まあ、そこそこだったけど私なりに満足している。
あ、あと、運営が主催したオリジナルデザインの服作りでも何回か入賞経験がある。
そのトロフィーなんかも私のお店には飾ってあった。
そこがちょっと自慢かな。
ともかく『ミズガルズライフ』の私はそんな感じで幕を閉じた。
そして私の余命も残り少ない。
お父さんやお母さんより早く死んじゃうのは申し訳ないけど、病気の進行がものすごく早かったのだ。
若いっていうのもいいことばかりじゃないね。
『ミズガルズライフ』終了から1年ちょっとが経った頃、私の人生も幕を閉じた。
あまり苦しまずに死ねたからよかった……かな?
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「……あれ?」
私は知らないベッドの上で目を覚ました。
天井も無機質な病院の天井ではなく、ログハウスの天井のような木組みの天井だ。
それに息苦しさが全然ない。
さっきまではあんなに息苦しかったのに。
寝たままでも仕方がないので体を起こしてみると、やっぱり体に力が入ってすんなり体を起こせた。
薄い布団から出てみると、私は一糸まとわぬ全裸の姿。
肌をこする布の感覚で想像は出来ていたけど、実際に見ると恥ずかしい。
仕方がないので布団で体を包みながら室内を調べると、寝室を出た部屋のテーブルの上に手紙とリュックが置いてあった。
私はまず手紙の内容を見てみることにする。
書かれている内容は以下の通りだった。
『拝啓
私はこの世界における生命の女神ユグドライア。
あなたは地球において死んでしまいました。
ですが、あなたの病気は本来かかるはずのものではなく、私の世界から漏れ出した力が原因です。
可能であればあなたを地球で生き返らせてあげたかったのですが、世界が違うためそれも叶わず、地球の神々も別世界の理からなる病を治すことはできませんでした。
そのため、あなたには私の世界で生きていけるよう新しい器を用意いたしました。
いわゆる異世界転生というものです。
あなたの許可なしに転生させたため、あなたが拒否をするのであれば輪廻の輪に戻すことも出来ます。
輪廻の輪に戻りたい場合、黒い扉のある寝室でお眠りください。
この世界で生きていくことを望まれる場合、いま出てきた寝室をお使いください。
この世界ですが、あなた方の世界でいう剣と魔法の世界です。
魔物という存在はいますが魔王はいません。
この世界で生きていくことを望まれる場合、この部屋の本棚にある本を参考にしてください。
一般的な武器の扱い方と薬草などの図鑑、魔法の取得方法などを書いてあります。
また、この小屋には約一カ月分の食料が置いてあります。
服や当面の路銀などは一緒に置いてあるリュックの中に入っていますので自由にお使いください。
それでは、よい人生を。
女神ユグドライア』
うーん、やっぱり転生、それも異世界転生か……。
小屋の中を見渡すと確かに黒い扉もあるから、そっちで眠れば安楽死のようなことが出来るんだね。
でも、せっかく新しい人生を過ごすチャンスを得られたんだから楽しまなくちゃそんだよね。
お父さん、お母さん、私はこの世界で生きていくよ。
だから、もう心配しないでね。
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