6. 冒険者ギルドにて

 冒険者ギルドは街の中心付近にある三階建ての大きな建物だ。

 この時間帯は依頼をこなした冒険者たちで混雑しているらしい。

 そこは仕方がないので諦めよう。


「リリィさん、こちらです」


 マイスさんが案内しようとしてくれているのは、いまも人の出入りが激しい正面入り口ではなく、裏手側の入り口だ。

 ここって従業員通路とかじゃないのかな?


「あれ? こっちから入っていいんですか?」


「普段はだめですよ。ですが、今日は特別です。入ってすぐが解体場ですし、そのまま進めばギルドの従業員用通路も使えます。あなたのような可愛らしいエルフのお嬢さんが正面からいきなり入っていったら目立ちますからね」


 うーん、裏から入っても目立つんじゃないかな。

 ちなみに、この世界の私はエルフ族になっている。

 ただ、エルフ族にありがちな金髪ではなく黒い髪で瞳の色も紫色。

 アメジストみたいな瞳の色で結構お気に入り。

 これも『リリィ』だった頃の名残だね。


「では入りましょうか。……ナマン、ちょっといいですか?」


「ん? マイスか。どうしたんだ裏口から入ってきて……って、その嬢ちゃんは誰だ? それに連れているのはラージシルクスパイダーじゃないのか?」


「はい。テイマーギルドの新人です。名前はリリィさん。ラージシルクスパイダーは彼女の従魔です。あなたにお願いしたいのはラージシルクスパイダーが獲物として持って来ているモンスターの解体ですね」


「それなら俺の仕事だな。だが、いまから頼んでいいのか? 冒険者ギルドの所属じゃないと解体費が3割だぞ。冒険者ギルドに所属すれば1割だ」


「ちょっとずるい手段ですが、彼女にはこのあと冒険者ギルドにも所属してもらいます。それで手を打ってもらえませんか?」


「マイスがそう言うんならそれでもいいぞ。それで、解体するモンスターは繭玉の中か?」


「はい。リリィさん、解体するモンスターを……あちらの方に出してください」


 私はマイスさんの指示された場所へタラトの繭玉を運んでもらい繭玉を解く。

 その中から出てきたタラトの獲物を見て解体場にいた職員たちは一斉にどよめきをあげた。

 結構な量だし、道を塞いでいたヴェノムリザードもいるからね。


「……こいつは大物だな。それに死んではいるが傷ひとつない。毛皮が取れるモンスターは相当な高値を付けられそうだ」


「肉はどうなんです?」


「どうだろうなぁ? 劣化してなきゃ卸せるだろうが……何日経っているかわからないものを市場に流すわけにもいかん。まとめて処分だな」


「なるほど。魔石はどうでしょう?」


「魔石か……全部取り出すが、それは売り払うのか、リリィの嬢ちゃん?」


 魔石はモンスターが持っている第二の心臓。

 モンスターなら大なり小なり必ず持っているらしい。

 ゴブリンなどの食肉にならないモンスターから得られる収入の多くは魔石によるものと女神様の本に書いてあった。

 私が持っていても使い道がないし、売り払ってもいいかな。


「ええと、魔石はばいきゃ……」


『魔石、食べたい』


「え、タラト、魔石を食べるの?」


『魔石食べると力が湧く。いろんな糸も出せるよ?』


 いろんな糸か……。

 ひょっとするとスパイダーシルクが作れるかも。


「魔石は売却せずに私がもらいます。大丈夫でしょうか?」


「了解だ。ゴブリンとかは解体手数料をもらうだけになるが、毛皮や皮なんかを剥ぎ取って売ることで手数料と相殺出来るだろう。渡せる金額は少なくなるが構わないよな?」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」


「任せろ。これが解体番号札だ。量が多いから解体は明日の昼くらいまでかかるだろう。冒険者ギルドの受付でその番号札を見せれば解体が終わっているかわかる。そんときに魔石と解体手数料を差し引きした残りの金を渡してやるよ」


「わかりました。ありがとうございます」


「おう。それじゃ、マイスの爺さん、後は任せた」


「はい。それでは、テイマーギルドと冒険者ギルドの登録に参りましょうか」


 いよいよ私も冒険者になるのか……。

 この世界の冒険者はどんな職業なんだろう?

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