313. ガレット伯爵家の嫡子交代と継承
さて、賠償の話は終わったわけだ。
これで私は帰れるかな?
「それでは次の問題だ。リリィ、コニエの木をガレット伯爵家に返還せよ」
うん、なにを言い出すかな、シャロン様は。
こっちは正統な取引で購入したものだし。
「お待ちください、シャロン殿下。コニエの木の権利は私も所有しております。それを手放せと?」
割り込んでくれたのはヴァードモイ侯爵様だ。
この契約にはヴァードモイ侯爵様も深く関わっているから黙ってはいられないよね。
「ヴァードモイ侯爵には言っていない。リリィの持っている分を手放せと言っているだけだ」
「それは聞き捨てなりません。コニエの木はヴァードモイ侯爵家とリリィの共同名義で購入した物、どちらか一方が手放すことはできない契約となっております」
「なに?」
「これがヴァードモイ侯爵家で保有している契約書の控えになります」
ヴァードモイ侯爵様、あの契約書を持ち歩いていたんだ。
ということは、この展開も予想済みだったな?
シャロン様って悪いところばかり貴族っぽくて読みやすいから、手玉に取るのは簡単なんだろうな。
「このような契約を交わしたのか!」
「はい。マクファーレン公王家のご許可をいただいておりますので」
「くっ!」
自分で出した許可だもんね。
いまさらなかったことになんてできないよね。
シャロン様、顔が真っ赤。
「もういい! ガレット伯爵、お前には今回の責任を取って隠居してもらう!」
「そんな! 今回のことはすべて息子のしたこと、その責任を問うのはあまりでございましょう!」
「貴族ならば息子の、それも嫡男のしたことの責任は取れ! その代わり、お前の嫡男の賠償金は私が支払ってやる!」
「おお、ありがとうございます!」
ああ、言っちゃった。
私は丸儲けだからどうでもいいんだけど、これもヴァードモイ侯爵様の読み通りだよね。
ヴァードモイ侯爵様の口元がにやけているもん。
「それでは、ガレット伯爵家モドワールの賠償金はシャロン様がお支払いになるということでよろしいですね?」
「構わん! これで満足か、ヴァードモイ侯爵!」
「はい。それでは、こちら、マクファーレン公王陛下からの親書でございます」
「父上からの? ……なんだ、これは! 聞いてないぞ!?」
シャロン様が激昂してる。
おそらく、あの嫡男を廃嫡するとか書いてあるんだろうな。
「誰も話をしておりませんでしたし、継承問題の話が出たのはこの場が初めてですので」
「だが、ガレット伯爵家の嫡男を廃嫡すれば誰がガレット伯爵家を継ぐのだ!」
「受け継ぐ者ならおりますよ。コニエリットを呼べ」
「はっ!」
ギャンさんが一度下がり、応接間に連れてきたのはコニエリット様だ。
ここまでヴァードモイ侯爵様の手の上か。
「ガレット伯爵家次女、コニエリットと申します。マクファーレン公王家シャロン殿下にはご機嫌麗しく」
「ガレット伯爵家に次女などいたのか?」
「はい。父からはいないも同然と扱われて参りましたが、貴族名鑑にも載っているはずです」
「コニエリットは現ガレット伯爵の第二夫人の娘。いまの嫡子を廃嫡しても彼女があとを継いでくれるでしょう」
「第二夫人の娘、それで問題は出ないのか!?」
「出ないでしょうな。ガレット伯爵の第一夫人は浪費家の元男爵令嬢、第二夫人は民に寄り添う施策を行う元伯爵令嬢として有名です。コニエリットも11歳と若いですが、民の信頼を集め実際に行動に移しております。現在、コニエリットはコニエの木の売上を用いて街道整備の工事を計画中で、機材が届き次第その工事を着工する予定となっております」
そこまで説明されたシャロン様は絶句してしまわれたね。
自分の派閥であるガレット伯爵家についての内情を、他派閥であるヴァードモイ侯爵様がより詳しく知っているんだもの当然か。
でも、これが決め手となり、ガレット伯爵家はコニエリット様が継ぐこととなった。
これでめでたしめでたしかな。
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