497. 村をどうするか

「そうか。どこにも水源はなかったか」


「はい。リク様はなにか発見がありましたか?」


「こちらもなにもなかった。近くにモンスターの気配はないな」


 日暮れまで水源を探し、結局なにも見つからずに村長宅へと戻った。

 そこで村の周囲にモンスターがいないか調べていたリク様と合流して情報交換をする。

 結論としては、お互いなにも見つからなかったということだ。


「さて、どうしたものか。周囲に新たなモンスターの気配がないことはいいことだが、水源を確保できないのは死活問題だ。山の方から引いてくるか?」


「そんな大規模な工事をやっている余裕ってあるんですか?」


「……ないな。忘れてくれ」


 水源を確保する有効な手段は、新しい川を作ることだろうけど、さすがにそんな大規模な工事を行う時間はないと思う。

 まずは川の始まりとなる湖なりを見つけるところからで、そこから川を引いてくることになる。

 湖だってすぐ近くにあるとは限らないし、川を作る工事だって何年かかるかわからない。

 既に干上がっているこの村に潤いを戻す手段としては、あまりいい方策ではないだろう。


{リリィ様、リク様、どうでしたかな?}


 ここで村人と別の打ち合わせをしていた村長がやってきた。

 ちなみに、キリ様も一緒だ。


{水源になりそうな場所はなし、モンスターの気配もなしだ。危険性が増したわけではないが、水を確保できそうにない。俺の意見としては村ごと移住をしてもらう方が助かる}


{やはりそうでしたか。村の皆とも話しましたが、水源の確保ができない場合、八座様の命に従い移住を考えていたところです。移住先はどのような場所になりますかな?}


{そちらはキリが調べているはずだ。キリ、そうだな?」


{はい。移住先はこの地から徒歩で3日ほど離れた場所になります。既に確認のための井戸掘りも終わっており、水が出ることを調べ終えています。毒性のある水ではないことも確認済みです。また、近くに池もあるので農業用水路を引くことも可能でしょう}


{おお、既にそこまで準備をしていてくださるとは。ありがたや、ありがたや……}


{これが俺たちの仕事だ。ただ、本当に移住するかわからなかったので、井戸も1本しか掘っていない。建物の準備もまだだ。移住が本格的に決まったあと、建物用の建築資材や大工を運ぶ予定だった。実際に住めるようになるのは、地ならしもあるので夏の終わりか秋頃になるだろう}


{では、今年の畑作は難しいと}


{残念だがそうなるな。今年は八座本島からの支援で……}


『いや、住む場所さえなんとかできるのであれば、畑の準備はできるぞ』


 村のことをリク様が決めようとしたところにキブリンキ・サルタスが割り込んだ。

 そうだよね、キブリンキ・サルタスたちなら数週間もあれば畑ができるよね。


{本当か}


『嘘は言わぬ。大規模な作業になるので本島に残った仲間たちも呼んできてもらう必要があるが、畑はなんとかしよう。さすがに、1年目から豊作が見込めるほど豊かな土地は作れないがな』


 キブリンキ・サルタスの言葉にリク様はすごくいぶかしんでいる。

 まあ、無理もない。

 今年の畑作に間に合うよう畑を作ると言っているんだからね。

 キブリンキ・サルタスたちならなんとかするだろうけど。

 本当に万能だからなぁ、農業については。

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