435. 砦を抜けて最初の街

 凍りついた砦を通り抜けたあと、タラトに門の部分も氷で閉ざしてもらい、誰もおって来られなくしておいた。

 これで、後方の安全は完璧だろう。

 あとはこの先の安全確保だね。


「プラムさん。この先のルートについて、なにか聞いてますか?」


「そうじゃな。以前、見せてもらった進軍ルートをたどるならば、ほとんどプラファード公爵配下の貴族家は通らぬ。通ったとしても、まだ家族の救出が終わってない故、態度を軟化させることはできないじゃろう」


「うまく先回りできませんかね?」


「さすがに無理があるな。プラファード公爵派の家族たちが囚われておるのは、プラファード公爵家の別宅がある街じゃ。借りたキブリンキ・サルタスたちを二手に分け、そちらの救出も行うことになってはいるが、派手なことになるので、儂らが着いてからの行動となる」


 うーん、道中で仲間を増やすのは難しいか。

 でも、プラファード公爵派閥の領地をかすめるように進軍することに意味はあるようだ。

 そうすることで、派閥の貴族たちが領土境に自然と兵士を集めることができる。

 その後、なにかあったときには、すぐに行動に移せるようにね。


 それで、私たちがいまどんなルートを通っているかというと、かなり広い街道を突き進んでいる。

 途中、旅人とかとすれ違うことがないので、通行規制がされているか、そもそもこの道を通ることがないんだろう。

 窓から見る限り、人が通っている痕跡があまり見つからなかったから後者かな?

 ともかく、人気のない道沿いに北方方面へと向かっているわけだ。

 襲撃も止んでいるのである意味不気味でもある。


 そのまま数日進み、いくつかの丘を越えると街が見えてきた。

 城塞都市である。

 規模は……そこそこ?

 門はしっかりと閉ざされており、街壁の上には兵士の姿も見える。

 しっかり警戒されているね。

 さて、どうしようか。

 あの街を占領する必要は私たちにないし、このまま素通りかな?


「リリィ、凍りづけにされている兵士たちの一部を開放できるか?」


「え? できますけど、ここで解放するんですか? ヴァードモイ侯爵様」


「そうだ。もう少し街まで近づくか」


 私たちの軍列は街の近くまで歩みを進める。

 ただ、街の近くにとりつくことはなく、攻撃を受けない距離で広がり、凍りづけになった兵士と氷の檻に囚われている兵士を乗せた荷車だけが少し前へ出た。


「お、おい。なんだ、あれは?」


「凍りづけの兵士に氷の檻に囚われている兵士だと? なんの冗談だ?」


 うーん、プラムさんの使ってくれた盗聴の魔法で壁の上の声がよく聞こえる。

 しっかり、この兵士たちに怯えてくれているみたいだね。

 インパクトはあるってことだ。

 よし、あとはヴァードモイ侯爵様に任せる!


「よく聞け! 私はヴァードモイ侯爵。此度はコリニアスが我が領土に攻め寄せた件で賠償を求めに来た! そなたらに剣を向ける考えはない!」


「そ、そんな言葉を信じられるか!」


「では、その証拠としてこの場にて捕虜の一部を返還しよう。まずは、檻に囚われているものを100名」


 ヴァードモイ侯爵様の言葉にあわせて檻の一部を解かし、外に出るための道を作る。

 でも、捕虜たちは怯えてほとんど外に出てくれなかったため、ヴァードモイ侯爵家の兵士が外に連れ出すことになった。

 別に、外に出したからって殺すつもりはない。


「それから、いま凍りづけになっている兵士から500名を返還する」


「凍りづけの兵士を500名だと!? 亡骸を渡されても困る!」


「亡骸かどうかは自分たちの目で確認せよ」


 今度は氷のかたまりを一部溶かして中で凍っていた人たちを解放する。

 氷から解放された兵士たちは一様に辺りを見渡し、ここがヴァードモイではないことに驚いている様子だ。

 当然だよね、彼らからすれば、ヴァードモイにいたはずなのに、いきなり別の場所にいるんだから。


「な、なんだ……? 氷の中から出てきた人間が動いているだと?」


「これで捕虜の返還を終わらせてもらう。お前たちもこのあとは好きにしろ」


「な、ここはどこなんだ? ヴァードモイではないのか?」


「ここはコリニアスの支配圏内だ。また凍りづけにされたくないなら、二度とヴァードモイを攻めようとはしないことだな」


「凍りづけ……そうだ、俺は氷の中に?」


「私にもよくわからんが、凍った時間の中に閉じ込めただけだそうだ。それを解放したからよみがえった、それだけのことらしい。私が言うのもなんだが、そんなことができる化け物の守る街がヴァードモイだ。この化け物が街を守ろうとしている間は攻め込もうとしないことだ」


「わ、わかった! 頼む、今回は見逃してくれ!」


「見逃すと言っているだろう。わずかだが食糧も持たせよう。故郷なりどこかに身を隠すなり、好きにせよ。ただし、賊に身をやつすようであれば、再び討ち取らせてもらう」


 あ、解放した捕虜に食糧まで渡すんだ。

 でも、食べる物がないとすぐに死んじゃうか。

 うーん、腹黒い。

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