401. 密偵の目的

 今回捕まえた密偵は全部で6人いるらしい。

 誰がリーダーなのかもわからないため、まずは全員から話を聞くことにする。

 さて、はじめはどんな人かな?


『最初の密偵は31歳の男だ。見つけたときの所持品は一般的な護身用の武具と携帯食料などを詰めた背嚢。見た目だけならただの旅人だな』


「よくそんな人を見つけたね?」


『森の中をこそこそ歩いていれば誰でも不審に思う』


 それは確かに。

 ともかく、その人に会ってみよう。


 密偵たちは衛兵たちの詰め所にある独房に分けられて入れられている。

 私は彼らにひとりずつ面談していくわけだ。

 で、最初の男の人が来たわけなんだけど、私の顔を見ても驚いた素振りを見せない。

 なんでだろう?

 私が狙いじゃなかったの?


「どうも。ようこそ、ヴァードモイへ。ご機嫌はいかがですか?」


 私が気さくに話しかけると、男は鼻をフンと鳴らし不機嫌そうに返してくる。


「最悪だよ。なんでヴァードモイに蜘蛛のモンスターが増えてんだ。銀の蜘蛛だけじゃなかったのかよ」


 銀の蜘蛛……フロストシルクスパイダー時代のタラトのことかな?

 つまり、この男はタラチュナトスになったあとのタラトのことは知らないんだ。

 普通に尋問をしていても時間がかかりそうなので一気に核心を突いていこう。


「とりあえずあいさつをしますね。私がリリィです。はじめまして、密偵さん」


 私のあいさつに密偵の男は目を見開いて驚いている。

 ん?

 ここでその表情?


「な? お前がリリィだと? 依頼主の人相書きとまったく違うじゃねぇか!」


 んん?

 依頼主の人相書き?

 キブリンキ・サルタスの方を振り向くと、頷き返してくるのでこの男は嘘を言っていないようだ。

 つまり、誰かから依頼されてヴァードモイには来たが、私の姿は知らなかったことになる。

 ……本当に私を狙ってきたの?


「ええと、多分、あなた方が探しているリリィは私のはずなんだけど?」


「そんなわけがあるか! 依頼主から渡された人相書きだと金髪で高身長のエルフだって聞いたぞ! それに従えている蜘蛛のモンスターだって銀色じゃないだろ!?」


 よし、わかった。

 その人相書きとやらは私のことを知らない人がでっち上げたんだ。

 タラトのことは知っていたようだけど、私のことはエルフだとしか知らなかったため、一般的なエルフの特徴である金髪にすり替わったんだろう。

 ちなみに、私は黒髪で身長も低いので、この男が言っている特徴に一致するのはエルフであるということくらいである。


 そのあともいろいろと聞いてみたんだけど、どうにもターゲットの特徴を理解していないっぽい。

 これはキブリンキ・サルタスでも情報を引き出せないわけだ。


 このあとの5人についても私のことをターゲットだと認識できた人はいない。

 はっきり言って、この密偵自体が罠だった可能性が高い。

 うーん、こいつらを囮にヴァードモイの防衛体制を暴きに来たのかな?

 キブリンキ・サルタスの存在、多分知られちゃったなぁ。

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