第二章 北からの侵略者
400. 小さな異変
○●○●リリィ
ジュネブの孤児院に支援物資もしっかり送った。
ルミテグランドウィングも使ったし、そう遅くないうちに届くだろう。
問題は教師候補なんだよねぇ。
これがなかなか見つからない。
ヴァードモイの孤児院でも教育は孤児院の院長たちがやっているし、街の子供たちは親が教えるか私塾に通うかだ。
そうそう手の空いている人材がいるはずもなく、こちらは一時棚上げとなっている。
それで私がなにを作っているかというと、モイラちゃんに送るデザインの指導書作りだ。
こちらもなかなか手こずっている。
私はなんとなく感覚的に作っているから、理論的な指導書を作ることに向いていなかった。
かといって、これ1冊があればアミラを含め後進の育成に役立つことは間違いない。
そのため、毎日こつこつと書き足していっている。
うん、やっぱり苦手だ。
そんなある日、侯爵様から呼び出しがかかった。
それも急ぎらしい。
先触れもなく呼び出しなんて最近にしては珍しいな。
ともかく、侯爵様のお屋敷に行ってみよう。
いつものメンバーでヴァードモイ侯爵様のお屋敷に行くと、なんだか雰囲気が重苦しい。
警護の人数が増えている気がするし、普段は私たちを案内してくれる使用人もメイドさんではなく武装した衛兵だ。
さて、なにがあったのかな?
「来たか、リリィ」
「お邪魔しています、ヴァードモイ侯爵様。それで、どうしたんですか、随分と警備が厳重ですけど?」
「うむ。それなのだが、森で作物を探していたキブリンキ・サルタスが怪しい男たちを発見してな。話しかけたところ逃げ出したので捕まえてきたみたいなのだが、どうにも北部国家の密偵だったみたいなのだ」
「密偵。随分とうかつなことをしたものですね」
「キブリンキ・サルタスたちが警備をするようになってからヴァードモイの情報が入らなくなっていたのだろう。それでなくとも、なにも知らない者が蜘蛛のモンスターから話しかけられれば逃げる」
……それもそうか。
どうにもタラトやキブリンキ・サルタスたちが身近にいるせいで感覚が麻痺していたらしい。
それで、その運のない密偵たちだが、なにも喋らなかったためキブリンキ・サルタスによる尋問が行われた結果、どうも私を狙ってきたみたいなのだ。
……私?
それにしては蜘蛛のモンスターに話しかけられるまで逃げ出さないなんてかなりうかつなんだけど?
私といえば蜘蛛のモンスターだという認識はなかったのかな?
「それで、リリィを狙った理由なのだがどうにもわからない。キブリンキ・サルタスによる尋問でもわからなかったのだ」
「キブリンキ・サルタスでもわからないなんてよっぽど隠すのが上手なんですね」
「私もそう思う。そこですまないがお前が直接尋問を行ってもらいたい。身の安全はできる限り保証する」
私自身が尋問するのか。
ヴァードモイ侯爵様の頼みってことは断れないんだけど、大丈夫かなぁ?
というか、尋問ってどうやればいいんだろう?
そっちの知識はまったくないなぁ。
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