396. 綿と麻の栽培依頼
キブリンキ・サルタスの開拓地が決まったら、この日はオクシット男爵邸に戻って就寝である。
魔道車ならそこまで時間がかからない距離でも、馬車だとやっぱり時間がかかる。
屋敷に戻ってきた時点でもう日が落ちていたものね。
これ以上の話し合いは翌日としてこの日は解散した。
それで、翌日はキブリンキ・サルタスの開拓する土地を譲渡してもらうための契約書作りから始まる。
キブリンキ・サルタスたちが耕した土地は男爵領ではあるけど、キブリンキ・サルタスたちがその土地を守護するという契約だ。
よほどの大物が来ない限りは救援を必要としない代わり、税を割り引いてくれという契約でもある。
あと、キブリンキ・サルタスたちの貸し出しについての代金と土地の代金の相殺などについても明記している。
こういったことはアリゼさんが得意なので本当に助かっているよ。
「完成いたしました。オクシット男爵様、リリィ様、ご確認を」
「……私の方は問題ありません。むしろこのくらいの出費で土地を開拓していただけるのであればお安いものです」
「私も問題ありません。キブリンキ・サルタスはどう?」
『問題ない。だが、我々も開拓する土地の広さには限度があるぞ? 休耕地以外で使わない土地を耕す気はない』
「キブリンキ・サルタスはそれでいいんだよ。自分たちで耕せる範囲だけで」
『それなら構わない。オクシット男爵だったな。そちらも構わないか?』
「はい、問題ありません。ただ、食糧以外にも育ててもらいたいものがありまして」
食糧以外にも育ててほしいもの?
一体なんだろう?
キブリンキ・サルタスたちが育てられるものなんだろうか?
「実は綿花と亜麻を育てていただきたいのです」
「綿花と亜麻……木綿と麻を作るんですか?」
「はい。おかげさまでモイラも服飾に興味を持ちいろいろと勉強をしております。ですが、我が領には布の生産地はなく、布を手に入れるのは容易ではありません。それならばこの機会に栽培地を作ってはいただけないかと」
ふむ、木綿と麻か、私もほしいな。
仕入れ値を下げることができればもっといろいろな服を作ることができる。
でも、キブリンキ・サルタスって木綿とか亜麻の育て方は知っているんだろか?
野菜ならなんでも知っていそうだけど、食べられない草まで知っているのかな?
『木綿に亜麻か。我々も育て方を知らないな』
「あ、やっぱりキブリンキ・サルタスにも知識の限界はあるんだ」
『食べられる野菜であればある程度は知っている。育つ気候がわかれば、似たような作物から育て方も推測できる。だが、そういったものとまったく植生が違うものはな……』
さすがのキブリンキ・サルタスでもこればかりはお手上げか。
この話はなかったことに……しようと思っていたら、意外なところから手助けがあった。
ヴァードモイ侯爵様である。
「キブリンキ・サルタス、育て方がわかれば育ててもらえるか?」
『仕事の一環としてなら育てよう。だが、本当になにもわからないぞ?』
「木綿や亜麻の栽培人を私が紹介する。彼らにオクシット男爵領へと移住してもらい、キブリンキ・サルタスと連携して布生産のための素材を栽培してもらいたい。可能か?」
『可能だ。そんなに布がほしいのか?』
「正直に言えばほしい。ヴァードモイはリリィのスパイダーシルクで潤っているが、やはり安い木綿や麻の需要の方が多いのだよ。それに公王陛下とも話しているのだが、布を生産するための生産拠点を整備するという話もある。オクシット男爵領をその拠点のひとつとしたい」
『わかった。わからないことだらけなので、その栽培人とやらはなるべく早く連れてきてくれ。土壌の整備すらできぬ』
「ああ。ヴァードモイに戻り次第、手配しよう」
こうしてオクシット男爵領は布の栽培拠点として選ばれることになった。
キブリンキ・サルタスなら手探りでも何年かでなんとかするだろうし、問題はないだろう。
布にするには素材を作るだけじゃ足りないけど、そっちもヴァードモイ侯爵様が手配してくれるらしい。
まあ、私はお願いされたら手助けをするって形で大丈夫かな。
多分、お偉いさんの間で勝手に進むだろうしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます