472. 洋上で八天座の島について基本的な講義

 八天座の島に到着するには3日ほどかかる。

 その間、なにもしないで待っているかというと、そういうわけでもない。

 八天座の島で基本的に扱われる礼儀作法や文化風習、農業の状態などについて学ばせてもらった。


 結果、八天座の島はわりと日本に近い風習が根強く残っているようだ。

 家には土足で上がらない。

 礼は手をまっすぐ下に伸ばし腰を曲げて頭を下げる。

 椅子が用意されていない場合、部屋の奥が上座になる。

 そんな感じである。


「なるほど。家には土足で上がりませんか」


「はい。そこは十分にお気を付けください。外部との交流でもっとも気を付けねばならぬことがこの部分なのです」


「わかりました。ほか気を付けるマナーはありますか?」


「そうですね……食事は基本、箸を使います。外部から来られる方が、フォークやナイフを使うことに目くじらを立てるような者がいるとは思いません。ですが、自分たちで用意しておかねばそのような食器はないでしょう」


 なるほど。

 あと、器も木製だったり陶磁器だったりするらしい。

 陶磁器も生産地に行けば安く手に入るので、地元の人たちは売り物にできないような形が不揃いの陶磁器を日常生活で使っているのだとか。

 決して田舎だからといって貧しい暮らしをしているわけではなさそうだ。


 ただ、魔道具はあまり普及していないみたいで、夜の明かりなどはロウソク頼りになるらしい。

 そこも今後は改善していきたい分野であるようだ。


「正直に申しまして、魔道具の生産に関する技術はほとんどありません。簡単な照明を作るための魔道具工房でよいので島に誘致したいのが本音です」


「かしこまりました、ビャク様。今回の視察が終わり次第、そちらも手配をかけてみましょう。ただ、魔道具工房を準備していただく必要はあります」


「申し訳ありません。そちらも設計と建設の指揮を執っていただけますでしょうか? 私たちにはそのノウハウもなく」


 八天座の島って本当に魔道具技術が発展していないんだ。

 プリシラさんとしても、その程度の技術を広めるのは問題ないと考えているようだけど、やっぱり対価を取る必要はあるみたい。

 で、ビャク様は外交分野の光の座なんだけど、産業分野になるとまた別の座が担当をしているらしい。

 そっちはちょっと職人気質な側面があるらしく、話をひっくり返されることはないにしろ、それとは別の技術も欲しがるかもしれないということだ。

 プリシラさんも内容次第では受けるみたいだし、それなりに譲歩する余地があるということなのだろう。

 魔導具技術の中でも照明の技術って古いものは相当古いから、出しても痛くないんだそうだ。

 これで八天座の島との協力関係を結べるなら安い出費ってことだね。

 さすが、プリシラさん、計算高い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る