374. コルスト男爵
コルスト男爵領の領都コルストには2日で着いた。
ヴァードモイのお隣にあるし、こちらは魔道車だからね。
ただ、お隣の領地とはいえ、キブリンキ・サルタスたちは目立つようだ。
いまも怯えたような視線がこちらを見ている。
話してみれば紳士的な蜘蛛なんだけど。
「ようこそ、ヴァードモイ侯爵様。そちらがお話しにあったモンスターですか」
ヴァードモイ侯爵様を出迎えに来たのは背が高くがっしりとした体型のおじさん。
この人がコルスト男爵らしい。
なんというか武闘派っぽいな。
「そうだ。街の警備に4匹、新規開拓に10匹、作物探索に10匹だったな。しっかりと連れてきたぞ」
「お手数をおかけいたします。それで、こちらのモンスターのテイマー様は?」
「あそこにいる娘だ。名をリリィ、あれでも銀級商人だぞ」
あれでもとはひどい。
慣れてきている自分もなんだけど。
「あの娘が? ……失礼。これだけの数のモンスターを、あのような娘が使役できるとは思えず」
「ふむ。ならば一戦交えてみるか? ああ見えてもなかなかの強さだぞ?」
ヴァードモイ侯爵様!?
余計な挑発はしないで!
コルスト男爵も乗り気だし、どうしたものか。
「それではリリィ嬢、覚悟はよろしいか?」
「はい。あまり本気にならないでくださいね?」
「わかっている。商人相手に本気を出すものか」
結果、どうにもならなかった。
模擬戦ということで、武器は木製のものを使うが防具は自前のものを使う。
要するに私は女神様の防具だから、そうそう怪我はしないけど、対人戦ってあまりやったことがないんだよなぁ。
最後にやったのっていつだっけ。
「では、参ります。……始め!」
審判員を務める衛兵のかけ声で模擬戦が始まる。
でも、お互いに前に出ようとはしない。
私はおなじみの塔盾に短槍という亀のように身を守り、隙ができたらカウンターという装備だ。
コルスト男爵はオーソドックスな片手剣と小型の盾という装備で、あちらも私の出方をうかがっているみたい。
うーん、このままじゃ場が硬直するな。
よし、先に仕掛けよう。
「なんだ? 設置型の魔法か!」
うわ、一瞬で気付かれた。
コルスト男爵が攻めてこないのをいいことに、私は盾の影から設置型の罠魔法をばらまこうとしていたんだ。
でも、1個目を発動した時点でばれた。
コルスト男爵って本当に武闘派だ。
「このまま出方を見ていては動くことができなくなるか。ならば、参る!」
コルスト男爵が一気に間合いを詰めて襲いかかってきた。
最初は剣で斬りつけるだけだったけど、私の盾がびくともしないことを確認して盾でも殴り始めた。
この衝撃が結構強い!
この人、オーガなんかよりもパワーがある!
「くっ、これでも守りを崩せないか……」
「いえ、私も守るだけで精一杯ですから」
「いや、テイマー相手に攻めきることができない時点で私の負けだ。降参する」
よかった、お互いに怪我をする前に済んでよかったよ。
実際、ここにタラトがいればコルスト男爵が攻撃している間に蜘蛛糸で絡め取るだろうからね。
テイマー相手に攻めきれないってこんなに大事なんだ。
いや、勉強になるなぁ。
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