440. プラファードの街の中

 私たちは一気に敵軍の間を駆け抜け、プラファードの中へと入る。

 ついでに門もさらに頑丈に凍らせておいて余計な邪魔が入らないようにしておいた。

 プラファードの街に入ったのは精鋭200名ほど、少数で一気に王弟を討ち取る計画である。


「わかっているな! 我々の目的は王弟コリニアスの首のみだ! 無関係な市民には一切手を出すな!」


 ヴァードモイ侯爵様が先頭で声を張り上げ、再度注意を促す。

 私たちはコリニアスをどうにかするために来ているのであってプラファードの街がほしいわけじゃないからね。

 この先、プラファード公爵と仲良くすることを考えたら市民に被害を出さない方がいいに決まっている。

 そこは慎重に行かないと。


「ヴァードモイ侯爵、コリニアスとか言う男は街の北部にある屋敷に立て籠もっているようじゃ」


「本当ですか、プラム殿」


「儂の手の者が忍び込んで調べてある。キブリンキ・サルタスを1匹使いに出したそうなので、その指示に従い進めばよかろう。とりあえず、いまは前進じゃ」


「わかりました。全員、足を止めるな! 前進!」


 門からまっすぐ伸びる通りを進み、しばらくすると盾を構えた槍兵たちの集団に出くわす。

 やっぱり待ち伏せされていたか。


「来たな、ヴァードモイ侯爵。プラファードが逃げ帰ってきたと聞くので急ぎ兵を集めて正解だったぞ」


「その声は、クレドリアスか。道を空ける気はないのだな」


「ほざけ! コリニアス様に逆らうお前の首、ここで取らせてもらう! 槍兵隊、前進!」


 槍兵たちが歩調を揃えて迫ってくる。

 なにげにあれが一番嫌なんだよね。

 盾の裏に身を隠しつつ、槍で攻めてくるの。

 槍だからこっちの剣が届かない距離からも攻撃できるし、うまく槍をかいくぐって近づいても盾で防がれるし。

 別に私が魔法で蹂躙してもいいんだけど、どうするかな?


『待たせた。知らない街の移動とは想像以上に時間がかかるものだな』


 こちらも武器を構えて待ち受けていると、屋根の上から声が聞こえてきた。

 正確には念話だ。

 キブリンキ・サルタスが到着したらしい。

 いいタイミング!


「な、何者だ!?」


『ヴァードモイ侯爵、その男たちはすべて拘束して構わないのか?』


「ああ、やってくれ」


 キブリンキ・サルタスは屋根の上から大量の蜘蛛の糸を吐き出す。

 それらは槍兵たちに絡みつき、槍兵たちがもがけばもがくほどその体を固めて動けなくしていった。

 ついでにクレドリアスとかいう男も捕まえたみたい。

 本当についでに捕まえたみたいだけど。


『とりあえずの拘束はこれでいいな。タラト、個別の拘束を頼む』


『わかった!』


『さて、こちらの状況について説明しよう。プラムの配下から説明があったとおり、プラファード公爵の配下を名乗る者が我々と接触を図ってきた。その手には、契約主の作ったスカーフがあったのですぐにわかったな』


「そんなにわかりやすかった?」


『タラトの魔力がこもったシルクだ。我々にはすぐにわかる』


 そういうものなのか。

 ということは、見る人によって私のスパイダーシルクってまったく別物に見えている?

 いや、まさかね。


『話を戻そう。接触してきた者の話では、もうじき陽動を行うそうだ。そのとき、人質の救出とコリニアスの屋敷への侵入を同時に行ってほしいと連絡があった』


「陽動とは?」


『すぐにわかる』


 すぐにわかる陽動って、相手にも陽動ってすぐにばれるんじゃない?

 大丈夫なのかな?


 ちょっと不安になっていたら、街の北部でものすごい爆発音して黒煙が立ち上り始めた。

 あれが陽動?


『始まったようだな。行くぞ』


「始まったようだなって。あれ、なにをしたの?」


『公爵家の持っている火薬庫に火をつけると言っていた。コリニアスの住んでいる屋敷からもそこまで離れておらず、陽動の可能性があったとしても人を割かずにはいられない。そんな場所だそうだ』


 うーん、なんでそんな近くに火薬庫があるんだろう?

 そこまで細かいことは聞いていなかったみたいだけど、ちょっと気になる。

 終わったあと、忘れていなかったら聞いてみよう。

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