492. 八座との会議 絹取引について

 元々、私たちが来るきっかけとなった議題はこれで終了。

 ここからは私たちが来たあと話題に上がった内容だ。

 まずは絹取引の話からである。


「八天座の島として、マクファーレン公国のスパイダーシルクをいくらか買い取りたいのじゃが、可能か?」


 発案者は火の座のお爺ちゃん。

 技術担当だけあって新しい素材には目がないようだ。


「可能不可能で言えば可能だと思います。ただ、スパイダーシルクの取引はすべてヴァードモイ商業ギルドにお任せしているので、プリシラさんと話をしてください」


「そうなのか? それではプリシラ殿、取引は可能か?」


「相応の対価さえ用意していただければお譲りします。ですが、八天座の島とは通貨も異なるようですので、そこを埋めるなにかを用意していただかなければなりません」


 そうなのだ、八天座の島とマクファーレン公国のある大陸とでは通貨自体が違うんだよね。

 出回っている通貨の材質が違うから、現金で取引するのはちょっときつい。

 少額であれば両替もできるんだけど、取り扱う品物が『絹』という高級な布である以上、かなりの額の取引になるだろう。

 どっちかの国の通貨が大量になくなるのはあまりいいことじゃないと思うから、なにか物々交換がいいな。


「対価か……。儂らの島の絹じゃだめかのう?」


「品質を確認してからになりますがそれでも構いません。ただ、スパイダーシルクもリリィさん以外の生産者がいない品物のためそれなりに高額な品物になります。大量に取引するには、そちらの生産能力が足りないのでは?」


「むむ、確かにそうじゃ。お蚕様から絹を作るにも、急に生産数を増やすことなどできぬ。儂らの島で使う分も確保せにゃならなんだし、絹同士の取引だけでは儂が望むほどの量は手に入らぬか」


 私は魔石の量を増やせばスパイダーシルクの量も増えるんだけどね。

 そういう意味でいうと、八天座の島にスパイダーシルクを渡すのは難しくない。

 問題は、冒険者ギルドから買える魔石の量が決まっていることとマクファーレン公国内部でもスパイダーシルクの需要がまだ多いことである。

 やっぱりスパイダーシルクを量産できるのが私しか知られていないため、ヴァードモイ商業ギルドにはスパイダーシルクを求めてたくさんの商人がやってくる。

 私以外にも野生のシルクスパイダーからスパイダーシルクを作る人はいるみたいなんだけど、品質も量も安定していないためにどちらも安定しているヴァードモイを選ぶそうだ。

 要するに、私ひとりでほぼすべての供給をしているスパイダーシルクは余っていないわけなんだよね。


 マナスパイダーシルクになるともっと手に入らなくなる。

 というか、私がある程度量産できるようになってからというもの、お金を出せば手に入る品となり流通価格が上がったようだ。

 昔はそもそも手に入らないからみんな諦めていたってことだね。


「ふむ。火の座、助け船を出してやろうかね」


「なんじゃ、土の座。なにかいいものでもあるのか?」


「プリシラ殿、八天座の島に伝わる薬を輸出しようじゃないか。それで手を打たないかい?」


「薬? どのような薬でしょう?」


「八天座自慢の再生補助薬だよ。回復魔法を使う前に飲ませると回復能力が大幅に上がるんだ。回復魔法の使い手次第でもあるが、死にかけの連中だって助けられるよ」


 なんだかすごい薬がきたぞ。

 でも、本当にそんなすごい薬を出してもいいんだろうか?

 危なくない?


「……効果を確認してからですね。それに、薬品となれば医療ギルドとも連携を取らなくては」


「それくらい慎重な方がいい。色よい返事を待ってるよ」


 うーん、強力な回復薬か。

 そんな薬を出したら八天座の島を支配しようとする侵略者が来るんじゃないかな?

 大丈夫なんだろうか。

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